クマに襲われ消えぬ「傷」 募る後悔、5回手術も日常戻らず

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クマに襲われた一瞬で負った「傷」はあまりにも大きかった。秋田県仙北市角館町の草履職人、千葉清美さん(63)は2025年秋、下顎を鋭利な爪で引っかかれ、重傷を負った。

10カ月で5回の手術を経験したが、食事や会話などの日常生活に支障を来し、元の状態に戻る可能性はない。「悔しい」。被害者が少しでも減るよう対策の徹底を訴える。

仙北市の観光地「武家屋敷通り」から約5キロの集落。25年9月26日早朝、千葉さんは日課としている愛犬の散歩に出かけた。今までクマと遭遇したことはなかった。だがその日、自宅裏の空き地で何かと目が合った。

「これがクマか」と気づいたときには、7〜8メートル先から全速力で向かってきた。とっさに左足で蹴ったが、2本足で立ち上がり鋭い爪で攻撃された。

体長は1メートル余り。手で頭を覆う防御姿勢を取ると、気配が消えた。顎に激痛が走り、周辺の皮膚が垂れ下がっているのが分かった。「爪で完全に破壊された」。自力で自宅に戻り、家族が119番。喉に血が流れていく感覚は今も覚えている。

クマの爪に付着した細菌の影響で一部の皮膚は壊死。救急搬送されてから1週間ほどの記憶は、ほとんどなく、医師から「命の危機からは脱した」と伝えられたのは約2週間後だった。

これまで全身麻酔の手術を5回受け、12時間に及んだこともある。人と会うときはマスクが欠かせなくなった。

治療計画は「半分すらたどり着いていないかもしれない」。趣味だった食べ歩きもできず、入院中は仕事もストップ。治療費の自己負担は60万円を超えた。今秋には6回目の手術を控える。

「自分から近づいたようなもの。クマ鈴やスプレーを持っていれば……」と後悔は尽きない。それでも、近隣住民や草履を購入した客からの励ましの言葉が支えになった。「被害は不運だったけど、絶望だけではなく、笑顔になれることもたくさんあった」

千葉さんの治療に当たった秋田大医学部付属病院高度救命救急センター(秋田市)の中永士師明医師は「クマに襲われたら、人生が大きく変わってしまう」と指摘する。

クマ被害のニュースで「命に別条はない」と報じられても、実際は千葉さんのように何度も手術が必要な大けがを負っているケースも多い。

千葉さんも「自分のような被害者は二度と出てほしくない。『自分には関係ない』と思わず、用心を重ねてほしい」。これからも自身の経験を伝え続けるつもりだ。

秋田大医学部付属病院高度救命救急センター(秋田市)で2023〜25年に治療を受けた43人のうち、86%の37人は顔面を負傷していた。立ち上がって威嚇するクマが人間の顔面付近を攻撃するためで、大けがや後遺症にもつながりやすい。

センターのまとめでは、43人は秋田県内に住む当時30〜80代で、70代が最多。約8割が市街地や田畑といった生活圏で被害に遭った。同センターは主に重傷患者を受け入れており、患者数は被害が多発した23年が20人、24年は5人、25年は18人(うち1人死亡)だった。

顔面を負傷した37人のうち、10人は目を損傷し、そのうち3人は眼球破裂で片目を失明した。22人は骨折。耳や血管を損傷した人もいた。32人が引っかき傷などの「挫創・裂創」だった。

腕は29人(67%)で、クマの攻撃から身を守ろうとした際に負傷したと考えられる。頭部は27人(63%)だった。

センターによると、クマは相手を威嚇する際に2本の後ろ脚で立ち上がる。前脚を振り下ろすと、ちょうど顔面付近に当たる可能性が高い。血流が良い顔面は出血量も多くなるという。さらに、顔面神経のまひや嗅覚障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの後遺症に悩まされる人もいる。頭や首を手で覆う防御姿勢を練習するなど、日頃の対策が命を守るとしている。〔共同〕

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