EV先進国だったはずのアメリカで、EV人気が失速
うん、まあ、そうなるよね…。
AAA(アメリカ自動車協会)が実施した最新の調査によると、次に購入する自動車として「EV(電気自動車)を選ぶ可能性が高い」または「非常に高い」と考えているアメリカの成人は、わずか16%にとどまっているそうです。
EV購入意欲、2019年以来の最低水準に
この数値は2019年の25%以来の最低水準なのだとか。今回の結果は、アメリカが内燃機関エンジンからEVへの移行を進めるなかで、あまり良くない兆候といえそうです。
逆に、次に購入する自動車として「EVを選ぶ可能性は低い」、あるいは「非常に低い」と回答したアメリカ人は63%に達し、2022年の51%から顕著に増加しています。
また、「どちらとも言えない」と回答した人は21%で、2022年と2023年の24%からやや減少しています。
EVに関心を持つ理由としてもっとも多かったのは、参加者の74%が挙げた「ガソリン代の節約」でした。2番目に多かったのは「環境への懸念」で、59%でした。「先端技術だから」が22%、「住んでいる州がガソリン車を禁止すると思うから」と答えたのは10%でした。
関心低下の背景にあるのはマスク氏の行動
では、なぜEVへの関心がここまで落ち込んでしまったのでしょうか?
AAAは、調査に協力した人たちの政治的傾向などの詳しいデータを公表していませんが、アメリカでもっとも有名なEV支持者であり、現トランプ政権寄りな思想で知られるテスラのCEO、イーロン・マスク氏の存在が関係しているとみて間違いなさそうです。
テスラは、マスク氏の分断を招く行動がユーザーの反感をかったのか、直近の四半期で自動車販売台数が13%減少し、利益は71%も落ち込んでしまいました。彼はドナルド・トランプ大統領の政権で「DOGE(政府効率化省)」の責任者に就任し、連邦政府に“大なた”を振るうかのような改革を推し進めたと報じられています。
さらに、今年2月にはCPAC(保守政治行動会議)で、こちらも極端な緊縮政策を進める極右の政治家であるアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領と一緒に登壇した際に、チェーンソーをステージに持ち込んで振り回し、悪い意味で話題になりました。
しかし、マスク氏のイメージをもっとも悪くしたのは、トランプ大統領の2期目の就任式が行なわれた1月20日の集会で、2回も「ナチス式のように見える敬礼」をやってしまったことだと考えられています。マスク氏本人は否定しましたが、世論には懐疑的な声も残っています。
10年くらい前は、裕福なリベラル層はマスク氏におおむね好印象を持っており、国内最大のEVメーカーであるテスラにとって好材料でした。しかし、現在はそのマスク氏にとってもっとも重要な顧客層がそっぽを向いているため、EV業界全体が打撃を受けているようです。
EVの未来はどうなる?
今回の調査では、アメリカの成人1,128人を対象にインタビューを実施しました。誤差の範囲は±4%とのこと。AAAは、EVへの関心が薄れるなか、消費者はハイブリッド車やプラグインハイブリッド車には引き続き関心を示すかもしれないと指摘しています。
今後数年でEV人気が再燃するかどうかに注目が集まりそうです。EVの再浮上は、他の自動車メーカーがアメリカ人の心をつかむEVを市場に投入できるか、あるいは、マスク氏が過激派のイメージを封印して、「重要な顧客層」が再びテスラ車を購入してくれるようになるかにかかっているようです。
ここ数日、マスク氏はトランプ政権の連邦政府債務を増加させる税制・歳出法案に猛反対して、法案をつぶすよう呼びかけているので、ある程度「重要な顧客層」のイメージ回復につながっている気がしないでもありません。
Reference: ロイター