【中国ウオッチ】貢献最大の盟友にも矛先◇習主席の党内粛清拡大:時事ドットコム

 中国の習近平国家主席(共産党総書記)は党内の粛清をさらに拡大し、自分の権力基盤固めに最大の貢献をした、かつての盟友にまで矛先を向けている。来年開かれる第21回党大会での総書記4選に向け、個人独裁体制の不安要素を徹底的に排除する狙いがあるようだ。(時事通信解説委員 西村哲也)

 中国共産党内で高官の不正を取り締まる中央規律検査委員会の常務委は7月3日、同党結成105周年祝賀大会で習近平国家主席(党総書記)が行った演説の精神と習近平党建思想を学ぶ会議を開いたが、国営中央テレビのニュース映像では、これまで中央規律検査委副書記(閣僚級)だった肖培氏の姿が見えなかった。

 肖氏は、習政権1期目(2012~17年)に中央規律検査委書記として習氏を支え、政権の基礎をつくった王岐山氏の直系。王氏が北京市長だった時期に08年北京五輪組織委の報道宣伝部長を務め、その後、中央規律検査委でも宣伝部長として王氏に仕えた。

 肖氏は6月24日、国政諮問機関である人民政治協商会議(政協)の社会・法制委員会副主任に選出されていた。高官を処分する権限を持つ中央規律検査委副書記を解任され、実権のない政協の閑職に回されたことになる。1961年1月生まれで、既に閣僚級の定年(65歳)に達していたが、規律検査委の要職は通常、任期満了(今期は来年)まで務める。現副書記の中にも60年生まれで続投している者がおり、肖氏の異動が左遷人事であることは明らかだ。

 中央規律検査委は王書記の時期に組織が拡充され、「反腐敗闘争」で習氏の政敵を次々と打倒。王氏に近い幹部が多かったが、肖氏が追い出されたことで、王氏の影響力は一掃された。このパターンの人事では、左遷後に粛清される可能性もある。

自宅軟禁説も

 王氏は文化大革命の頃、都市の青年を農村などへ派遣する「下放」先で習氏と知り合ったといわれる。習氏の父と王氏の岳父はいずれも元副首相で、両者は「太子党」と呼ばれるエリート階層に属する。無派閥で権力基盤が弱かった習氏が政権1期目に頼った有力者の一人が王氏だった。王氏が政府系金融機関の破綻処理や新型肺炎(SARS)対策で活躍し、その剛腕ぶりが知られていたからだろう。習政権2期目(2017~22年)になると、王氏は高齢のため党指導部を離れたが、国家副主席として儀礼的な外交活動を担った。

 しかし、習氏は権力を拡大するにつれ、左傾化していったことから、思想面では比較的柔軟といわれる王氏とは疎遠になった。20年以降、王氏と親密だった実業家や元側近が投獄された。ただ、その一方で、王氏の元部下が要職に起用されるケースもあった。

 今年に入って、風向きがはっきりした。王氏の元部下が3月、6月、7月と立て続けに反腐敗で粛清された。3月に失脚して国家金融監督管理総局の副局長(次官級)を解任された周亮氏は、王氏が次官級の頃から約20年もその側近ポストを務めた。6月には、北京市長時代の王氏の秘書役を担った黎暁宏氏が失脚した。7月15日に不正調査対象になったと発表された蔡赴朝氏は、前出の肖氏が北京市で宣伝工作を担当していた時期の上司(市党委宣伝部長)。現役を退いて久しく、75歳という高齢での処分は珍しい。

 7月下旬にも、王氏の別の元部下(元中央規律検査委常務委員)が拘束されたとのうわさが流れており、王氏関係者の粛清はまだ続いていると思われる。

 王氏についても事実上の自宅軟禁説が出ている。中国で要人の関係者が多数捕まる場合、最終的に要人本人を粛清するケースと、要人をけん制して動きを封じるだけのケースがあるが、王氏がどちらなのかは今のところ、はっきりしない。

 江沢民元国家主席と李克強前首相は既に他界し、胡錦濤前国家主席は健康状態が悪くて政治活動はできないとみられるので、王氏は今や数少ない健在な有力OB。しかも、国民や党員の間で人望がある。猜疑(さいぎ)心がますます強くなっている習氏が「放置できない」と考えても、おかしくはない。

「旧友」は皆失墜

 「習1強」確立の功労者なのに習氏に敵視されるようになったという点で、王氏への圧迫は、1月に中央軍事委の張又侠副主席(当時の制服組トップ)が打倒された事件とよく似ている。張又侠氏も太子党で、その父(将軍)が習氏の父の戦友だった。両氏は子供の頃に北京で通っていた学校が違うので、幼なじみかどうかは分からないが、父親同士の関係で縁があったことから、習氏は軍の掌握で張又侠氏を頼った。同氏は軍内の内紛を勝ち抜いて、軍人として名実ともにナンバーワンとなったのに、結局、習氏に切り捨てられた。この結果、軍上層部は要職の大半が空席という事態になり、修復にてこずっている。

 6月に幹部養成機関の中央党校校長解任が判明した陳希氏(元党中央組織部長)は太子党ではないが、習氏とは清華大学の同窓で、昔から個人的関係があった点は共通している。習政権1期目に党・政府などの高官人事を握る中央組織部の常務副部長(閣僚級)、2期目に同部長を務め、3期目に入る際、同部長を退任したが、兼務していた中央党校校長は続投した。習政権で10年以上も人事に関わってきた政権運営のキーパーソンだった。

 昨年春、陳氏が中央組織部長のポストを譲った李幹傑氏(清華大学出身)が党中央統一戦線工作部長に事実上左遷された異例の人事が、今回の中央党校校長解任の前兆だった。校長解任の直後にも、陳氏が中央組織部長時代に同部へ呼び寄せた張光軍氏が同部の副部長から科学技術次官に異動させられた。次官級の横滑りながら、政治的実権は大幅に縮小し、これも事実上の左遷である。陳氏を中心とする清華大学閥は既に解体されたと言ってよい。陳氏がこれまでに引き上げてきた多くの幹部は、影響を免れないだろう。

 王、張又侠、陳の3氏はいずれも習氏に歯向かったわけではない。ただ、自分個人の権力絶対化を追求する習氏としては、特定の部門に大きな影響力を持つ人物の存在自体がだんだん許容できなくなっているのかもしれない。

 以上の人事により、習氏が官僚になる前から面識があった旧友の有力者は全員失墜。習政権の主要人物は、中央党校校長を兼ねた党中央書記局の蔡奇筆頭書記(幹事長に相当)のように、習氏との関係が部下としてスタートした従者タイプの幹部だけになった。ワンマンに必要なのは手下だけで、盟友はいらないというわけだ。

 習氏がかつて勤務した福建省の人脈に連なる蔡氏は、総書記の首席秘書官に当たる党中央弁公庁主任も兼務し、党務の責任者として絶大な権力を手にしている。従者タイプの典型としては、浙江省人脈の李強首相や党・政府の外交部門で権勢を振るう王毅外相(党中央外事工作委弁公室主任を兼任)もいる。

 蔡氏らは、現段階では権力闘争の勝ち組だ。ただ、習政権下で実権が縮小した国務院(内閣)を率いる李氏が地味に立ち回っているのに対し、党中央における蔡氏と外交部門における王氏の影響力は前例がないほど大きくなっている。両氏を習氏が引き続き特別扱いして重用するのか、いずれ何らかの形で抑制して政権内のバランスを取るのかが今後の政局の注目点となる。

(2026年8月4日)

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