中谷潤人「サプライズ」いきなり猛攻で王座統一 井上尚弥戦についてNBA選手からDM届く
◆プロボクシング ▽WBC&IBF世界バンタム級(53・5キロ以下)王座統一戦12回戦 〇WBC王者・中谷潤人(6回終了TKO)IBF王者・西田凌佑●(6月8日、東京・有明コロシアム) バンタム級の無敗対決で、WBC王者の中谷潤人(27)=M・T=が、IBF王者・西田凌佑(28)=六島=を6回終了TKOで撃破し、王座統一に成功した。中谷は来年に東京ドームで開催が期待される世界4団体スーパーバンタム級統一王者・井上尚弥(32)=大橋=とのビッグマッチに向け、近く王座を返上する意向だ。那須川天心(26)=帝拳=は世界前哨戦を大差の判定勝ちでクリア。11月に計画するバンタム級での世界初挑戦に前進した。(観衆1万2000) 井上尚弥がリングサイドから視線を送る中、中谷がこれまでのイメージを一変する、非情なボクシングを展開した。6回開始前に西田が右腕をさするのを見ると、中谷はさらなるダメージを与えるべく、激しくパンチを繰り出した。距離を詰めてワンツー、左フック、アッパー…。機関銃のような攻撃に、西田の膝が崩れそうになる。6回のインターバル。IBF王者は立てない。3回に右肩を脱臼していた。相手の棄権が告げられると中谷はリング上で喜びを表した。 「1ラウンド目から、あばらの上からでもダメージを与えていくと話し合った。ファンにも西田選手にもサプライズだった。初回から狂わせてやろうと。すごくダメージを与えられたのは見て取れた。非情ですけど、攻めました」。柔和な笑顔からは想像できないボクシング。「ジュントはリングに入ると鬼になる」というルディ・エルナンデス・トレーナーの言葉は正しかった。4月下旬から約1か月、米ロサンゼルスで合宿。延べ260回以上のスパーリングでスタミナを強化したから、初回から飛ばすことができた。5回終了直前に右フックが空振り。「恥ずかしかった」と苦笑いする余裕もあった。 すべては王座統一、そしてその先にある、井上尚とのビッグマッチを見据えてのものだ。今春には英国のボクシング専門ブランド「BOXRAW(ボックスロー)」とアンバサダー契約を結び、シューズの提供を受けた。さらにNBAバックスのPGデイミアン・リラードからSNSでDMが突然届いた。「井上尚弥とはいつ戦うのか」などと尋ねてきたという。「突然来たので驚きました」と明かした中谷。大のバスケットボール好きだけに「今年のテーマはワールドワイド。自分の名前を知られていてうれしかった。とても刺激になりました」。中谷の注目度は日増しに高まっている。 今後は王座を返上し、1階級上のスーパーバンタム級転向のプランが有力だが、中谷は「今後はチームと相談して決めたい」と明言を避けた。だが、試合後、リング上から井上尚に向けてメッセージを送った。「もうすぐ行くので待っていてください」。ファンはもう来年5月、東京ドームでのモンスター対ビッグバンの夢対決を待ちきれない。(谷口 隆俊) 【戦評】中谷は序盤から大振りの強打を多用。右アッパーでガードをこじ開け、左ストレートを顔面に打ち込む。偶然のバッティングで西田の右目上が腫れてから冷静にパンチを当てた。6回終了で西田陣営が右肩脱臼のため棄権を申し入れ、レフェリーが試合を止めた。西田は巧みなステップで右ジャブを打ったが、なりふり構わぬ中谷の突進に圧倒された。 ◆中谷に聞く ―念願の統一王者だ。 「フライ級の時から統一戦はしたかった。日本人のなじみのあるバンタム級で統一できてすごくうれしいし、自信になった」 ―重みは? 「西田選手と戦うっていうことで、すごく自分自身も成長できたと思うので重みのあるベルト。これがチャンピオン同士の戦いなのかなと感じられた」 ―井上尚が見ていた。 「(来場は)知っていた。映像でも見えた」 ―今後へ。 「また新たな未来が開けたと思う。他にも世界王者がいるし、階級を上げることも含めてチームと話し合いたい」 ◆中谷 潤人(なかたに・じゅんと)1998年1月2日、三重・東員町生まれ。27歳。中1からボクシングを始め、中学卒業後、米国で単身武者修行。2015年4月にプロデビュー。16年度全日本フライ級新人王。19年2月に日本同級王者、20年11月にWBO世界同級、23年5月にWBO世界スーパーフライ級、24年2月にWBC世界バンタム級王座獲得で3階級制覇を達成。身長173センチの左ボクサーファイター。家族は両親と弟。 ◆過去の日本人世界王者同士の団体王座統一戦 ▽ミニマム級 井岡一翔―八重樫東 12年6月にWBC王者・井岡とWBA王者・八重樫が対戦し井岡が3―0の判定勝ち ▽ライトフライ級 寺地拳四朗―京口紘人 22年11月にWBC王者・寺地とWBAスーパー王者・京口が対戦。7回2分36秒TKOで寺地が統一 ▽フライ級 寺地拳四朗―ユーリ阿久井政悟 25年3月にWBC王者・寺地とWBA王者阿久井が対戦。寺地が12回1分31秒TKO勝ちし、井上尚弥に次いで国内2人目の複数階級での統一王者となった ◆西田右肩脱臼棄権 西田は無念の右肩脱臼でプロ初黒星を喫し、無冠となった。陣営が6回終了時に続行不可能と判断して棄権。3回に肩が外れたという。バッティングで右目周辺も腫れ上がり、記者会見は行わず病院へ直行した。 1、2回は中谷のラッシュに圧倒されたが、慣れてきた3、4回には左のショートパンチをヒット。これから反撃という時にTKO負けとなった。無敗サウスポー対決に「過去最高の仕上がり。勝つ自信はある」と臨んだが、不完全燃焼に終わった。近大ボクシング部同期の妻・沙捺さん(28)に付き添われ、悔しそうな表情で会場を後にした。今後は減量苦から解放され、スーパーバンタム級で2階級制覇を狙うか。休息の後、次の一歩を踏み出す。
報知新聞社