人とAIの“ちょうどいい距離感”はどこにある? AI活用の「しくじり先生」に学ぶ
AI時代の働き方に必要なのは、技術より温度感なのかも。
人工知能(AI)が仕事のあり方を大きく変えようとしている中、すでに「AIファースト」を掲げる企業も増えてきました。しかし、進め方を間違えると、思わぬところで人らしさが失われてしまうようです。
そんな2つの事例がFast Companyによって紹介されました。果たして何があったのでしょうか?
AIが700人分の仕事をこなしていたKlarna、人の採用を再開
スウェーデンのフィンテック企業・Klarna(クラーナ)は、いち早くAI活用に舵を切り、AIが700人分のカスタマーサポート業務を担っていた時期もありました。
しかし、現在は人材の採用を再開しています。どうやらAIだけでは補いきれない部分があったようです。
CEOのセバスチャン・シェミャトコウスキ氏は、「コストを重視しすぎた結果、サービスの質が低下した」とBloombergに語っています。
同氏の「人によるサポートこそが、これからの価値になる」という言葉は、AI社会において大切な本質を突いているように感じられます。
DuolingoはAIファーストを継続。でもSNSでは大きな反発も
一方、語学学習アプリのDuolingo(デュオリンゴ)は、AIファースト戦略をさらに強化。AIで対応できる業務には外部スタッフを使わず、各チームが自動化を徹底したうえで、必要に応じてのみ人員を増やすという方針を打ち出しました。
しかし、この発表がSNSで大きな反発を呼んでいます。TikTokの投稿には「AIじゃなくて人に教えてほしい」「アプリを削除した」といったコメントが多数寄せられ、炎上状態となっています。
これに対し、デュオリンゴは「AIは人間の代わりではなく、あくまで教育専門家が活用するツールであり、すべて人間の監修のもとで運用している」と説明しています。
またユーザーからはこうした反発があるものの、デュオリンゴの株価は過去最高を記録。2025年の売上予測も上方修正されています。
AIと人がともに働く未来のために
世界経済フォーラム(WEF)の調査では、企業の約4割が人員削減とAIによる業務代替を検討しているといいます。
しかし、ユーザーや従業員の間には不安も根強く残っています。ハーバード・ビジネス・スクールの研究者、ジュリアン・デ・フレイタス氏は、「AIが人間の補助ではなく、完全に代わるように見えると人は本能的に不安を感じる」と述べています。
また、不安だけでなく、単純に「面白くない」と感じるケースもあるかもしれません。言語学習においてAIは役立つ場面も多いですが、もしユーザーの目的が異文化交流やディベートといった人間との対話にある場合、サービスの魅力が薄れてしまうことも考えられます。
実際、オンライン英会話を6年ほど続けている私にとって、どれほどAIが優れていても、生身の人間とのレッスンは欠かせません。それは、フリートークを通じて先生の個人的な意見に触れ、視野を広げられるからです。AIはその準備段階――時事ネタのリサーチや語彙の確認など――で活用していますが、本番には人の存在が必要だと感じています。
だからこそ、AIが悪いのではなく、「どこにAIを活用し、どこに人が関わるべきか」を見極めることが重要なのではないでしょうか。
企業にとっても、ユーザーにとっても大切なのは、AIを使うか/使わないかという単純な二択ではなく、どこまで任せてどこに人が必要なのかという距離感ではないでしょうか。
AIと人がともに働く未来。そこにあるべきちょうどいい関係を、私たちは今まさに模索している最中なのかもしれませんね。
Source: Fast Company