【コラム】7月大災害の予言恐らく的中せず、でも備えを-リーディー
今週末、日本で大災害が起きることはまずないだろう。だが、もし起きたらどうするか。
災害が多く発生する日本では今、ある予言にまつわる話題が関心を集めている。きっかけは、7月5日に大災害が起きると示唆する漫画作品の存在だ。
「私が見た未来」は、女性漫画家たつき諒氏が夢で見た未来を描いた作品で、初版が1999年に出版された。表紙に「大災害は2011年3月」という一文があったことなどで注目を集めた。
まさにその11年3月に国内観測史上最大の地震が発生した。壊滅的な津波と福島第1原子力発電所の事故が起きたことで、たつき氏は予言者として一部から受け入れられるようになった。
21年には「私が見た未来 完全版」が出版され、25年7月5日に起きるとされる大災害の予言が追加された(たつき氏は25年7月と予言しており、具体的な日付には議論もある)。それは、フィリピン海での大規模噴火が引き金となり、東日本大震災の3倍もの高さの津波が襲うというものだ。
実際にこうした災害が起きれば、人命に甚大な被害が及ぶのは間違いない。だが、経済面ではすでに影響が出始めている。香港をはじめ、アジア各地からの観光客が不安から日本行きを控える動きが出ており、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は予言による訪日の敬遠が続けば、経済損失は約5600億円相当に上る可能性があると試算している。
7月5日が近づくにつれ、この話題が取り上げられることが多くなっている。筆者もバーで質問を受けたり、カフェで話題に上っているのを耳にしたりしている。
ここ2週間、九州南部沖で比較的小規模な地震が数百回発生していることもあり、災害関連の報道が増えている。「完全版」の国内累計発行部数は100万部を超え、たつき氏の別の著書もランキング1位となった。
油断禁物
無論、科学が進歩しているとはいえ、地震は予知できない。気象庁もSNSで、「そのような予知については信頼すべきではないと考える」と注意を呼びかけている。
だが、このメッセージはやや混乱を招いている。実際、昨年には最大30万人の死者が出ると推定される南海トラフ巨大地震の可能性が平常時に比べて相対的に高まっているとして、「南海トラフ地震臨時情報」が発表され、国民に緊張が走った。
臨時情報が出された翌日に緊急地震速報も流れた。金曜日の夜だったが、にぎわうバーで同僚と過ごしていた筆者は、その場にいた誰もが身を固くするのを感じた。これでもう終わりかとも思ったが、そうはならなかった。
こうした油断禁物の姿勢には一定の意義がある。昨年、南海トラフ地震は起きなかったが、その脅威は残っている。政府の警告を受け、筆者を含め多くの人々が防災用品の準備や補充を進めた。だが、用心はすぐに油断へと変わってしまう。
災害に備えよ
将来を予測できるという考えは、多くの人にとって魅力的に映る。不確実な世界で確実性を与えてくれるからだ。1999年のノストラダムスの大予言や、マヤ文明に関わる2012年の終末論といった数々の予言は外れたが、それを乗り越える力にもなる。
ごく一部の予言が的中した場合、例えば1988年のアニメ映画「AKIRA」が2020年の東京五輪開催を予言していた件だけを覚えているのは、生存者バイアスの典型だ。つまり、的中しなかった数々の予言は忘れ去られ、たつき氏の11年に関する記述のような例のみが記憶される。
だが、たつき氏が描くような災害は、現実にいつ起きてもおかしくない。それが7月5日であれ、その前後であれだ。政府の南海トラフ地震に関する予測によれば、この地震がわれわれの生涯のうちに起きる可能性は高いとされている。
それでも、多くの人は依然として不意を突かれる。メディアは首都直下地震のような大規模災害に注目しがちで、他地域の住民には根拠のない安心感を与えてしまう。福島第1原発の運営者を含め、11年の沖合地震に十分備えていた者は少なかった。過去の災害記録があったにもかかわらずだ。
では、7月5日に何も起きなかったらどうなるのか。恐らく多くの人は肩をすくめ、信じて損したと少し恥ずかしそうにしながら、あるいは以前よりも多少備えが進んだ状態で、日常に戻っていくだろう。たつき氏に対する見方も変わるかもしれないが、彼女自身はすでに具体的な日付ではないと距離を置いている。
いずれにせよ、災害に備えるべきだというメッセージに、われわれは耳を傾ける必要がある。7月5日に大地震が起きることはまずないだろう。だが、いつかは起こり得る。それこそが、まさに心にとどめるべき警告なのだ。
(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Disaster (Likely) Won’t Strike Japan This Weekend: Gearoid Reidy(抜粋)