国旗損壊罪|広尾晃「野球のことを中心に、そのほかの話題も」

自民党を中心に、これを法制化しようとする動きがあるが、これほどの悪法、いや愚法はないだろう。この法律が施行されたとして、違反した人を勾留したり、罰金刑を与えたとして、世の中の何が良くなるのだろう。「国旗を毀損するような奴は国賊だ。治安を乱すに違いない」というかもしれないが「そんな奴、いまどきの日本におらんでえ」というところだ。

外国国旗損壊罪と何が違う?

高市早苗首相がこの法案を通そうとするのは、彼女の岩盤支持層とされる「極右」がこの法案を通すことに執心しているからだ。彼らは「『外国国旗損壊罪(正式には外国国章損壊罪)』があるのに、なぜ日の丸を破っても罰せられないんだ?」と言う。その自明の理が理解できないのだ。外国国旗は言うまでもなく「よそ様の国旗」だ。それぞれの国には、それぞれの歴史があり、様々な経緯で国旗が成立している。国民の思い入れもそれぞれだ。国旗(国章)は、よその国の人にはうかがい知れない歴史、文化のエッセンスといって良い。それを毀損するのは、その国を侮辱することであり、その国の人々を辱めることでもある。国家レベルで言えば、それは外交問題になりかねない。外国国旗を尊重することは、その国を尊重することでもあるのだ。個人が好き嫌いで国旗について云々することなどあってはならない。外国国旗を尊重することは、多くの国のダイバーシティを尊重することでもあるのだ。

「日の丸」は明治から

では、日本国国旗「日の丸(日章旗)」は、どうなのか?その発祥は諸説あるが、幕末に江戸幕府が外国船との識別のために日の丸を掲げたとされ、その発案は島津斉彬だったとも、徳川斉昭だったともされる。日の丸を「万世一系」の皇室の象徴だとか、古来から使われていたとか言うの妄言のたぐいだ。そもそも、日本が「国」という概念を持ったのは幕末であり、それまでは「国旗」というものは存在するはずもなかったのだ。明治政府は「富国強兵」をスローガンに、日本を国家としてまとめ上げた。その「旗印」が「日の丸」だったのだ。日清戦争、日露戦争を経て日本は欧米に伍する国になっていった。「日の丸」は明治以降の日本の近代化の象徴になった。

しかし、日本は大正時代以降、欧米列強に倣って「帝国主義国家」へと変貌し、他国を侵略し植民地化していった。侵略される国にとって「日の丸」は「侵略の旗」であっただろうし「恐怖の旗」「憎悪と嫌悪の旗」でもあったはずだ。

「日の丸」に嫌悪感を抱く日本人

また、日本が軍部の暴走によって「軍国主義化」する中で、日本人の中にも体制に反対する人も出てきた。昭和以降、大日本帝国は、国家の方針に反対する者を弾圧した。その中には「共産主義」「無産主義」などの思想に染まった人もいたが、そうではなくて「良心」として、自らが生まれた国の変貌に疑念を抱く人もいたのだ。敗戦後、日本はアメリカを中心とする連合軍に統治された。当初、連合軍は天皇を廃して日本の国家体制を変更しようとしたが、日本社会の統治には天皇制は不可欠と判断して、天皇制を維持した。それに伴って「日の丸」も国旗として存続。国歌(ナショナルアンセム)「君が代」も存続された。しかしながら当初は「日の丸」や「君が代」に、戦前の専制国家の面影を見て嫌悪感を抱く日本人も少なからずいたのだ。

「国旗」を否定する人も含めて国民

おそらくこれは日本だけの事情ではないだろう。どんな国でも近代国家としてまとまるについては様々な軋轢があった。一つの旗のもとに「統一国家」となることに抵抗感を示す人たちが、必ずいたはずだ。つまり自国の国旗に「複雑な感情を抱く」人は、少なからず存在したのだ。その国が民主主義国家で、人権を尊重する国である限り、国旗や国歌に反対の意思を示す人を弾圧することなどあり得ない。「国旗」を否定する人も含めてその国の国民なのだ。「国旗損壊罪」は「日の丸」が日本の国旗としてまとまり、日本の統合、象徴となるにあたって存在した様々な経緯、事情を軽視した、極めて野蛮な法律だといえる。

「日の丸」は「阪神タイガースの旗」とはわけが違うのだ。

「戦後」の風化

戦後80年が経過して、進駐軍の統治時代を知る人もいなくなった。「日の丸」「君が代」に反感を覚えた人も高齢者になった。私は、日の丸を日本の国旗だと思うし、君が代が流れるときには脱帽して起立する。そのことに何の抵抗もない。しかし一方で、様々な事情で「国旗」を嫌悪する人がいることも知っている。そのことの自由を尊重すべきだと思う。

もちろん国旗を損壊することは非常識ではあるが、それを罪に問い「日の丸」を支持しない人を弾圧するなど、まともな国のすることではない。

高市早苗首相はリアリストだから「国旗損壊罪」を法制化することはないと思う。自民党内にも反対する人は一定数いる。「私は通したかったけど、反対する人が多くて」と言う形で沙汰やみになるのではないか。

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