シャチがマンボウを一撃で粉砕、研究者が仰天

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目の前で繰り広げられている光景を見た海洋生物学者のケイティ・エアーズ氏は、水中カメラを握りしめたまま思わず叫んだ。「何てこと! 信じられない!」 1頭のシャチがマンボウの尾を押さえ、そこに別のシャチが猛スピードで突進してきて、マンボウを粉々にしてしまったのだ。あまりに激しい衝突で、バキッという恐ろしい音が水中に響きわたった。この行動は、学術誌「Frontiers in Ethology」に7月23日付で発表された論文で詳しく報告された。

「めちゃくちゃな状況でした」と、論文の最終著者で「Conexiones Terramar」という非営利団体に所属する海洋生物学者、エリック・イゲラ氏は話す。同氏も、メキシコのカリフォルニア湾でこの事件を目撃していた。

最初はなぜシャチがマンボウを押さえているかわからなかったが、映像を見返してあることに気づいた。「マンボウは間違いなく標的でした。これは意図的な行動だったのです」

しかも、マンボウは粉砕される前にすでに絶命していた。シャチはいったい何をしていたのか? 研究者たちはさまざまな仮説を立てている。

シャチは賢く、独創的な狩りをすることが知られている。

「ホホジロザメを襲う、連係プレーでアザラシを狩るなど、シャチの複雑な行動は、これまでにも多くの研究で取り上げられています」と、オーストラリアにあるグリフィス大学の海洋生態学者オラフ・マイネッケ氏は述べる。なお氏は今回の研究には関わっていない。

シャチの群れはさまざまな獲物を狙うが、マンボウもそのひとつだ。

マンボウは地球で最も重い硬骨魚だ。シャチには、この大きくて平たい魚が顔の付いた巨大なディナープレートに見えるのかもしれない。

「海の魚の中でも、マンボウはとりわけおかしな格好をしています。成長すると、体長数メートル、体重は1トン以上になります」と、「Beneath the Waves」という非営利海洋保護団体の研究科学者で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるエアーズ氏は言う。氏は論文の筆頭著者でもある。

海には5種類のマンボウがいることが知られているが、今回のようにシャチが体当たり(ラミング)する様子が記録されているのはヤリマンボウ(Masturus lanceolatus)だけだ。尾のようにも見える舵びれ(クラバス)がほかの種よりも突出しているのが特徴だ。これがあるため、シャチは押さえやすかったのかもしれない。

それにしても、なぜシャチはこのような行動を取ったのだろうか?

マンボウが粉々になると、「すぐに若いシャチがやってきて、肉片を食べはじめました」と、「Latitude Encounters」社で海洋生物を見学できるツアーのガイドをしたり、メキシコのバハカリフォルニアでシャチの群れごとの食性を研究したりしているエアーズ氏は話す。「そのため、食べやすい大きさに解体したかったのではないかと思いました」

一方、マイネッケ氏は、マンボウを食べるために体当たりで粉砕する必要はないと考えている。「マンボウは1頭でも仕留められる楽な獲物です。動画のように粉々にしなくても、家族で分け合うことができます」

イゲラ氏によると、シャチはとても硬い皮膚を持つサメや海洋哺乳類を襲い、大きな肉を丸ごと飲み込む。大きな肉片を消化できないからマンボウをバラバラにしたわけではないとイゲラ氏は考えている。

別の説も提唱されている。シャチが遊んでいるというものだ。

「シャチはとても賢く、獲物で遊ぶことがあります」とエアーズ氏は言う。「若いシャチは、この遊びを通して社会とのつながりを強めたり、狩りの能力を育んだりすると考えられています」

若いシャチは、おとなのシャチを見て、狩りに必要な技術を習得するのだろう。「コミュニケーション、方向感覚、タイミングなど、この行動には緻密な連携が必要です」とマイネッケ氏は話す。群れが世代を超えて生存戦略を伝える方法のひとつというわけだ。

動きが遅く、反撃してこないマンボウは、練習に最適だ。「マンボウは基本的に無防備な魚で、成長しきっていないシャチでも安全なので、狩りの練習をしたり、社会的つながりを強めたりできるのです」とイゲラ氏も話す。

シャチは大型海洋哺乳類を狙うことが多い。海洋哺乳類はマンボウよりも脂肪の密度が高く、エネルギーも豊富だ。しかしイゲラ氏は、マンボウを食べるメリットもあると考えている。

たとえば水分の補給だ。マンボウの組織は水を多く含んでいる。「シャチは恒常的にマンボウを食べているので、ほかの特性もあるに違いありません」

マンボウの厚いゼリーのような外皮層を破壊することで、微生物が放出される可能性も論文で示唆されている。イゲラ氏は、こうした微生物を含む肉片が若いシャチにとって有益だと考えている。たとえるなら、人間がプロテインシェイクを飲むようなものだ。「人間が体力を高めるためにサプリメントを摂取するようなものかもしれません」

マイネッケ氏は、この説を証明するにはさらにデータが必要だと考えている。「このようにマンボウをバラバラにすると、栄養的なメリットが得られることが明確にわからない限り、立証するのは難しいと思います」

理由は何であれ、このような行動がどこで行われているかがわかるのは有益なことだ。体当たりを含め、シャチがどこで子どもたちに重要な生存行動を教えているのかがわかれば、シャチにとって重要な場所が特定でき、カリフォルニア湾などの保護につなげることができる。

エアーズ氏はこう話す。「ここでシャチを見られる保証はないというのが、今の現実です。だからこそ、シャチを見られる体験は特別なものになるのです」

文=Melissa Hobson/訳=鈴木和博(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2026年7月24日公開)

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