【米国市況】株反発、中東情勢への懸念後退で原油下落-144円台後半
16日の米金融市場は、比較的落ち着いた状況を取り戻した。株は反発し、原油と金は下落。イスラエルとイランの軍事衝突がより広範な紛争に発展するとの懸念が後退した。先週末に7%余り上昇したウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)原油先物は、1.7%安で終了した。
株式 終値 前営業日比 変化率 S&P500種株価指数 6033.11 56.14 0.94% ダウ工業株30種平均 42515.09 317.30 0.75% ナスダック総合指数 19701.21 294.38 1.52%トランプ米大統領は、イランがイスラエルとの対立緩和について話し合いを望んでいると発言。米国が軍事的にさらに関与するかどうかの質問に対しては、話したくないと述べた。
関連記事:トランプ氏、イランは「対話望んでいる」-イスラエルとの交戦4日目
米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)はこれより先、イランがイスラエルとの敵対行為を緩和したい意向を示しており、米国がイスラエルの軍事行動に加わらない限り、米国との核協議を再開する用意があると報じた。ロイター通信も、イランがこうしたメッセージをカタールとサウジアラビア、オマーンを通じて伝えたとしている。
ニュースレター「ザ・セブンズ・リポート」の創業者トム・エッセイ氏は「引き続き地政学的ニュースに注目が集まるだろうが、紛争がイスラエルとイランの間にとどまる限り、市場に大きな影響を与える可能性は低い」と述べた。
モルガン・スタンレー傘下Eトレード・ファイナンシャルのマネジングディレクター、クリス・ラーキン氏は「関税だけが相場変動の潜在的要因でないことを、市場はあらためて認識させられた」と指摘。「現時点で市場は、中東における状況が限定的なものにとどまるとみているが、予期せぬ展開となれば投資家心理に極めて大きな影響が及ぶ可能性がある」と述べた。
ロリ・カルバシナ氏率いるRBCキャピタル・マーケッツのストラテジストは、 原油相場の高騰を背景にインフレが急上昇すれば、S&P500種は現行水準から20%下落する可能性があるとリポートで指摘した。
関連記事:米国株に年内20%下落リスク、インフレ急上昇のシナリオで-RBC
JPモルガン・チェースのトレーディングデスクは、株式相場が下落すれば買いの好機だと指摘。グローバル市場インテリジェンス部門の責任者アンドリュー・タイラー氏率いる同デスクは、長期的には関税引き下げが進むとの前提の下、強気シナリオはなお有効だと述べた。一方で、中東に対する米国の関与について明確な見通しが得られるまでは慎重姿勢を維持すべきだと述べた。
国債
米国債相場は下落(利回り上昇)。イランがイスラエルとの緊張緩和を望んでいるとの一部報道を受け、原油相場が下げたことが背景にある。
国債 直近値 前営業日比(bp) 変化率 米30年債利回り 4.96% 6.5 1.32% 米10年債利回り 4.45% 5.1 1.17% 米2年債利回り 3.97% 2.1 0.53% 米東部時間 16時48分イランがイスラエルとの戦闘終結を望んでいることを示唆したとの報道を受けて原油価格が下げ、インフレ懸念が後退した。
ミシュラー・ファイナンシャル・グループのマネジングディレクター、トム・ディガロマ氏は「債券価格を左右するのは実際のところ原油だ」とし、債券は株の上げ下げと同じ動きをしてきていると指摘。「状況が良ければ株式相場は上昇し、債券も上昇する」と述べた。
この日実施された20年債入札は、最高落札利回りが入札前取引(WI)の利回りと一致。先月行われた同年限の入札が不調で債券相場の広範な売りを招いたことからすると、著しい改善を示した。ただ、入札後も長期債の下げは短中期債に比べて大きかった。
エネルギー価格の高止まりがインフレを再燃させるとの懸念はくすぶっている。
コロンビア・スレッドニードル・インベストメントの金利ストラテジスト、エド・アルフセイニ氏は、米国債にとってもう一つの主な要素として市場のボラティリティーを挙げた。
「ショックがインプライドボラティリティーの上昇につながり、それがリスク資産と金利資産に対する需要後退を引き起こすという経路が働いている」と述べた。
外為
外国為替市場ではドル指数が下げを消す展開。イランが緊張緩和を望んでいるとの報道で原油価格が下げたのに連れて、日中はドル売り優勢の展開だった。
一方、イスラエルは、あくまでもイランに対する軍事行動を追求すると表明した。マネックスの外為トレーダー、ヘレン・ギブン氏は「イスラエルとイランによる相反するメッセージがドルの重荷となっている」と述べた。
為替 直近値 前営業日比 変化率 ブルームバーグ・ドル指数 1202.59 0.10 0.01% ドル/円 ¥144.74 ¥0.67 0.47% ユーロ/ドル $1.1562 $0.0013 0.11% 米東部時間 16時49分円は他の主要10通貨に対して下落。対ドルでは、ニューヨーク時間午前に上昇する場面があったが、その後は売りが強まり、144円台後半で推移している。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のシニア為替アナリスト、リー・ハードマン氏は「足元の円安は日銀が17日の会合で慎重な政策スタンスを示すとの見通しや、中東での衝突が日本に及ぼす悪影響を一部織り込んでいるためかもしれない」と指摘した。
原油
原油先物相場は反落。中東の紛争が原油生産の混乱につながらないとの見方から売りが優勢になった。
ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)先物は取引開示直後に上昇したものの、イランを巡るWSJ紙の報道を受けて下げに転じた。イランはイスラエルとの対立緩和について話し合いを望んでいるとのトランプ米大統領の発言も、中東で長期的な紛争に発展するとの懸念が弱まるのに寄与した。
CIBCプライベート・ウェルス・グループのシニア・エネルギー・トレーダー、レベッカ・バビン氏は「この状況は、ホルムズ海峡に関する懸念が脅威を過度にあおっていた可能性を示唆している」と述べた。
それでも、イスラエルがサウスパース・ガス田への攻撃を実行し、生産プラットフォームが停止を余儀なくされており、原油市場では依然として緊張状態が続いている。ただ、重要な原油輸出インフラはこれまで被害を免れており、重要なホルムズ海峡の通行妨害も発生していない。
イランの天然ガス生産への攻撃は懸念材料だが、石油市場最大の懸念材料はホルムズ海峡だ。世界の石油の約2割が同海峡経由で輸送されており、イランがこのルートを妨害した場合、価格はさらに急騰する恐れがある。
原油価格はイスラエルによるイラン攻撃開始前よりも大幅に高い水準を維持している。13日の空爆開始後、原油価格は取引時間中に7%余り上昇し、先物とオプションの取引量が記録的な水準に達した。
RBCキャピタル・マーケッツは、双方がエネルギーインフラを標的としたことは明確な懸念材料だと指摘し、イランの主要な輸出拠点であるハールク島や近郊のイラク油田が危険にさらされているとの見方を示した。モルガン・スタンレーは、紛争によるリスクの高まりを理由に、原油価格予想をバレル当たり10ドル引き上げた。
現時点では、影響の大部分は海運市場に限定されている。英当局は妨害行為がペルシャ湾全域で強まっており、船舶が自動システムで位置を報告する際に影響を及ぼしていると明らかにした。
関連記事:ペルシャ湾で通信信号に妨害行為、イスラエル・イランの戦闘が影響
ニューヨーク商業取引所(NYMEX)のWTI先物7月限は、前営業日比1.21ドル(1.7%)安い1バレル=71.77ドルで終了。ロンドンICEの北海ブレント8月限は1.3%安の73.23ドルで引けた。
金
金相場は反落。イスラエルのイランに対する戦争が他国を巻き込むとの懸念が後退したため、下げに転じた。金スポット価格はオンス当たり3390ドル前後まで下落し、4月に記録した過去最高値を約110ドル下回った。
マレックスのアナリスト、エドワード・メイア氏は「投資家が様子見姿勢を強めているため、この日のボラティリティーはやや低下している」と述べた。
地政学的リスクの急激な高まりにより、先週の金スポット価格は3.7%上昇し、トランプ大統領の関税政策が世界経済を抑制するとの見方に後押しされた上昇基調に弾みがついた。
金スポット価格は年初来で約30%上げており、中央銀行がドルからの分散投資を進めていることも一因となっている。
ガーディアン・ゴールド・オーストラリアのアナリスト、ジョン・フィーニー氏は「金価格は依然として最高値水準に非常に近く、地政学的な状況を踏まえると、緊張が一段と高まれば価格をさらに押し上げるだろう」と予想。「金は最近、安全資産として非常に良好なパフォーマンスを示しており、多くの投資家が長期的に米国債から資金を金に移しているようだ」と指摘した。
スポット価格はニューヨーク時間午後2時41分現在、前営業日比42.50ドル(1.2%)下落し、1オンス=3389.84ドル。ニューヨーク商品取引所(COMEX)の金先物8月限は35.50ドル(1%)安の3417.30ドルで引けた。
原題:Stocks Rise as Fear of All-Out Mideast War Eases: Markets Wrap
US Bonds Trim Losses as Oil Falls After Surge Toward Year’s High
Dollar Erases Drop as Israel to Pursue Strikes: Inside G-10
Oil Drops on Signs Conflict May Spare Iranian Crude Production