コラム:イラン・イスラエル紛争で揺らぐ中国の中東戦略
[香港 18日 ロイター Breakingviews] - 中国にとって、イランは単なる原油供給国以上の存在だ。イラン産原油を大幅な割引価格で輸入する恩恵を受けるだけでなく、2021年に締結した4000億ドル(約58兆円)の協定に基づき、イランへの戦略的なインフラ投資を増やしてきた。イランの体制が著しく弱体化または体制転換が起きた場合、中国は中東における重要な外交的影響力を失う。
イランの原油輸出抑制を図る米国の制裁にもかかわらず、イランは中国にとってますます重要な供給国となっている。中国税関のデータによると、主要な積み替え拠点であるマレーシアから中国への原油輸送量は、2021年から3倍に増加し昨年は7000万トンに達した。これはロシア、サウジアラビアに次ぐ規模だ。
さらに、イランは地理的に習近平国家主席が掲げる「一帯一路」構想で重要な戦略的役割を担い、2023年の時点で、対イランの海外直接投資60億ドル相当の3%を中国が占めている。
ロシアの27%という貢献度に比べると見劣りするが、中国は他の方法でも支援を強化している。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが6月に報じたところによると、イランは軍事力を増強するために、「数千トン規模の弾道ミサイルの原料」を中国に求めている。また、イラン、ロシア、中国の3か国は定期的に合同海軍演習を実施している。
紛争の激化は、中国が湾岸地域で抱く新たな野望にも悪影響を及ぼす恐れがある。わずか2年前、中国の外交官はイランとサウジアラビアの国交回復を仲介し、これは中東における摩擦解決の「新たなパラダイム」だと称賛していた。
戦争はまた、中国の外交関係に対する新たな試練でもある。イランは2023年に中国が主導する地域協力組織「上海協力機構(SCO)」に加盟した。創設メンバーであるインドは14日、イスラエルの攻撃を糾弾するSCOの声明に異例の反論を行った。この反論は、習近平とイスラエルとの関係を緊密化させているモディ首相との間に潜在的な溝があることを浮き彫りにした。
中国にとっての危険は、今回の事態が、地域における影響力拡大という野心を損ない、中東を経由してインドと欧州を結ぶ構想「インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)」のようなライバルのインフラプロジェクトを台頭させる可能性があることだ。IMECは、中国の影響力を弱めることを目的としている。今のところ、中東の地域秩序再編は中国にとって有利な方向には進まないようだ。
●背景となるニュース
中国外務省は13日、イランの主権侵害と紛争激化に反対を表明。駐イスラエル中国大使館は17日、イスラエル在住の中国人に退避を促した。
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Chan Ka Sing is China Columnist for Reuters Breakingviews. Prior to joining Reuters, he worked at Week in China, Hong Kong Economic Journal and Dow Jones Newswires.