【解説】 スターリンクがロシア軍のアクセスを遮断、ウクライナは戦場で優位になるのか

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画像説明, スターリンクの通信システムは、ウクライナ軍にインターネットアクセスを提供する重要な手段となっている(2025年4月、ウクライナ・ドネツク州)

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米実業家イーロン・マスク氏が所有する衛星通信サービス「スターリンク」はこのほど、ロシア軍のアクセスを拒否した。この判断が、ウクライナとの戦争の前線でロシア側の進軍を鈍らせ、ロシア兵に混乱をもたらしている一方、防衛するウクライナ側に有利に働いていることを示す証拠が積み上がっている。

しかし、この状況はいつまで続くのか。そして、ウクライナ軍はその間に、何を達成できるのか。

ウクライナ軍でドローンを操縦するジョヴァンニ氏(通名)は、「ロシア軍は(中略)戦場を支配する能力を失った」と述べた。

「攻勢能力の50%を失ったと思う」とジョヴァンニ氏は語り、「数字がそれを示している。攻撃が減り、敵のドローンも減った。あらゆるものが減っている」とした。

ウクライナのミハイロ・フェドロフ国防相は今月初め、スターリンクを運営する「スペースX」に対し、ロシア側の利用を遮断するよう求めた。状況の変化はその後に始まったばかりで、その影響を評価するには時期尚早だ。

しかし、前線の長い一帯の一部、特にザポリッジャ市の東側では、ロシア軍が撤退を余儀なくされている証拠も出ている。

フェドロフ国防相の要請の背景には、スターリンクの利用がロシア軍に、より精密な攻撃を行う能力を与えているという証拠が積み上がっていた事情がある。ロシア軍は複数の事例で、約400ドル(約6万3000円)相当の端末をドローンに取り付け、操縦者がリアルタイム映像を用いて標的へ誘導できるようにしていた。

スペースXの衛星通信は、間もなく丸4年を迎えるこの戦争で、双方の軍にとって不可欠な存在となってきた。

しかし、2月1日以降、状況は一変した。スペースXは、ウクライナ国防省が承認した「ホワイトリスト」にある端末以外の、国内で稼働するすべての端末を停止した。

このため、国内の民間利用者は再接続の前に、端末と個人IDを登録し直す必要に迫られた。

ウクライナのオンライン活動家団体「インフォルム・ナパルム」は、この状況を利用し、ロシア兵に対するフィッシング作戦を開始。使用しているスターリンク端末の詳細を明かさせることに成功した。

同団体の広報担当ミハイロ・マカルク氏は、「人々から連絡が来始めた時、私たちは彼らをクローズドのグループチャットに誘導した」と述べた。「極秘であることを示したかったからだ」。

マカルク氏によると、このグループで、南部のクリミア半島からベラルーシ東部のホメリ市に至るまで、2425台のスターリンク端末を特定することに成功したという。

再接続への近道にいると信じ込んだ一部のロシア兵をだまし、合わせて5000ドル(約77万円)をオンラインで支払わせたケースもあったという。

前線近くにあるこれらの端末の位置が特定されると、その多くがウクライナ軍の砲撃やドローン攻撃の標的となった。

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画像説明, 今年1月のロシアのドローンによる旅客列車攻撃も、スターリンクを使っていたとみられている(ハルキウ)

代理でスターリンク端末を登録してもらうために、ロシア兵がウクライナ側の協力者に賄賂を渡そうとしているとの報道が出る中、インフォルム・ナパルムは、データ提供に応じる姿勢を見せていた約30人を特定した。

ウクライナ保安庁(SBU)は1週間前、「スターリンク端末を不正に登録するためにウクライナ市民を勧誘しようとするロシア側の試みに、積極的に対抗している」と発表した。

SBUはすべてのウクライナ市民に対し、「警戒を保ち、こうした挑発に乗らないように」と警告。ロシアへの協力行為は国家反逆罪に当たり、長期の禁錮刑につながる可能性があると注意喚起した。

前出の「インフォルム・ナパルム」のマカルク氏によると、ロシア連邦保安庁(FSB)も兵士らに向けて「この詐欺に引っかからないように」と警告しているが、今回のフィッシング作戦は、ロシア側を心理的にかく乱する効果を及ぼしているという。

「彼らはもう互いを信用していない」とマカルク氏は述べた。また、ロシア語のチャットで、スターリンク端末を近くに置く危険性が議論され、汚い言葉が飛び交う様子をおさめたスクリーンショットを記者に見せた。

ウクライナの前線でも、兵士らは変化を実感している。

スターリンクが持つ高速で妨害耐性の高い通信を失ったロシア軍は、代替手段の確保に追われている。

匿名を条件にBBCの取材に応じたウクライナ兵は、「この地域では、ロシア軍は無線通信を使い始めた」、「相手の行動が把握しやすくなった」と語った。

長々と続く前線の一帯では、ロシア軍が急ごしらえの対策を講じている様子が確認されている。

「ロシア軍は今、緊急で有線通信に切り替えている」と、別のウクライナ兵は語った。

工兵部隊に所属するアルテム氏(通名)によると、ロシア軍は、以前のように効果的にドローンを誘導することに苦労しているという。

「これは、重要インフラや兵たん、指揮所を守るために重要だ」とアテルム氏は述べた。

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画像説明, ウクライナでは軍だけでなく、民間人も通信をスターリンクに頼っている(2023年1月、ドネツク州)

ウクライナの軍事アナリストらは、前線から遠く離れた場所で、ウクライナの兵たんや陣地に対するロシア軍のドローン攻撃が弱まった影響は極めて大きいと指摘している。

ウクライナ安全保障・協力センターのセルヒイ・クザン所長は、「ロシアのドローン操縦者は以前、前線から100〜250キロ離れた標的までドローンを制御し、直接攻撃していた」と述べた。

通信速度が生死を分ける戦争の中で、ウクライナの一部の兵士らは、この状況を実質的な好機と感じている。

「敵の指揮伝達を5秒か10秒でも上回ることができれば、前線の状況は一変する」と、ある兵士は語った。

ウクライナ国防省情報総局(HUR)は、ロシア軍の通信を傍受したとし、その内容とするものを公開。そこでは、自国のシステムがスターリンクの代替にならないことへの不満が読み取れるとしている。

公開された情報には、ロシア兵の「自分の知る限り、この『ガスプロム』は完全な粗悪品だ」という発言が引用されている。これは、ロシアのガスプロム・スペース・システムズが製造した、独自の人工衛星「ヤマル」を使った機材を指しているとみられる。

BBCは、この傍受したという情報の出所を独自に検証・確認できていない。

HURは17日の声明で、スターリンクの遮断は「部隊の連携、兵たん、地上型から空中ドローンに至る各種無人システムの展開に、すでに深刻な問題を引き起こしている」と結論づけた。

ソーシャルメディアでは、ロシア兵が電力線やテレビ塔にWiFi中継機を設置しようとしている最中に、ウクライナのドローン攻撃を受けたとされる映像も拡散している。BBCは、この映像を独自に検証できていない。

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画像説明, ウクライナは軍は現在、銃器や砲撃よりもドローン攻撃でより多くのロシア人を殺害しているという

ウクライナの兵士全員が、状況が劇的に変化したと確信しているわけではない。

一部の兵士はほとんど違いを感じないと語り、天候や予定されていた部隊の交代といった他の要因も影響している可能性があると示唆した。

「ドローン攻撃や砲撃は以前と同じように続いている」と、ある兵士は語った。

ロシアでは、軍当局者が国営テレビで、スターリンクの喪失は作戦に影響を与えていないと主張している。軍関係者の1人は、スターリンクは「主に敵を欺くため」に一部の部隊だけが使っていたと述べた。

激戦地となっている東部ポクロフスクに滞在しているジョヴァンニ氏はBBCに対し、ロシア軍が解決策を見いだすのは時間の問題だと語った。

「ロシア軍は間違いなく適応するだろう」と、ジョヴァンニ氏は述べた。

それにどれほどの時間がかかるかは、誰にも分からない。

ウクライナ軍はその間に、可能な限り優位性を活かし、双方の間に広がる、いわゆる「グレーゾーン」や「キルゾーン」と呼ばれる危険な無人地帯を押し広げようとしている。

ウクライナ軍南部司令部のウラド・ウォロシン報道官はBBCに、「今、我々はグレーゾーンを一掃している」、「敵がどこにいようとも攻撃を試みている」と語った。

一方でウォロシン氏は、ウクライナ軍が先週の数日間で200平方キロメートル以上の領土を奪還する大規模な反攻に出たとする報道を否定。目標はもっと控えめだったと述べた。

「我々は敵がグレーゾーンに陣地を築くのを許さず、敵の強襲部隊を食い止めた」

元ウクライナ情報将校のイワン・ストゥパク氏は、軍が現在の状況を利用できるのは、おそらく数カ月間だろうとみている。

「前線のロシアの装甲部隊は現在、部分的に目が見えず、耳が聞こえない状態だ」とストゥパク氏は語った。「このいら立ちと士気低下が続けば、わずかな反攻でも2022年と同規模になり得る」

ウクライナ軍は2022年の夏から秋にかけ、同国北部と南部で広大な領土を急速に奪還した。しかし、こうした電撃的成功の再現は、現時点では見込みが薄いように思われる。

しかしストゥパク氏によると、どんな小さな成果でも、ウクライナ指導部が交渉の場で有利な立場を確保する助けになるという。

「ロシア軍を撃退し、領土を取り戻し、そして新たなカードを手にした状態で交渉を始めることができる」と、ストゥパク氏は述べた。

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