「爆発物かと思った…」池袋の住宅街に“謎のスーツケース”が続々放置 民泊業者も頭抱える訪日客マナー問題
東京都豊島区の池袋駅西口周辺の住宅街を歩くと、放置されたスーツケースが目に飛び込んでくる。ここ数年、外国人観光客の急増に伴い、池袋周辺では「スーツケースの不法投棄」が深刻な地域課題となっているという。スーツケースのほかにも分別されていない生活ゴミを放置され、カラスによる被害も相次いでいる。一体何が起きているのか?
爆発物じゃないかと怖がる近隣住民も…
池袋駅の西口から徒歩圏内に広がる西池袋エリア。閑静な住宅街があるほか、近年急増したマンションや民泊施設が混在している。地域の氏神として知られる御嶽神社の周辺では、特にゴミ回収場所でのスーツケース放置が目立っているという。
「目立ち始めたのは、数年くらい前からじゃないかしら。いつの間にか、(スーツケースが)ゴミ捨て場に置いてあるんですよ。中には爆発物じゃないかって、近隣の人は怖がることもありました。どうやら民泊を利用する一部の外国人観光客が捨てているらしいんです」
そう語るのは、長年この地に住む70代の女性だ。女性が住む家の前には、地域のゴミ収集場所があり、放置されるタイミングは収集日に重なることが多いという。
「一昨日なんかは、ちょうどゴミ収集の業者さんが来る日だったから、ゴミ捨て場で『ガーッ』『バシッ』とかすごい音がして、最初はゴミ収集の人が作業か何かをしている音だと思ったんですが、外を見たら、スーツケースが置かれていて、投げつけたのか少し欠けていました。役所の人も何回か見回りに来たりして、カメラで撮影し実態調査をしている様子でした」
投棄のピークは、大型連休などの観光シーズンに重なる傾向があり、ゴールデンウィーク中には複数のメディアが“スーツケース放置問題”をとりあげた。
「帰国する時に日本で新しい大きなスーツケースを買って、古い方の中に必要なくなった荷物をいっぱい詰めて捨てていくみたい。やっぱり日本に来る外国人の方が捨てるんですよね。悪い人たちばかりじゃないんでしょうけど、一部の人たちが置いていっちゃう。
防犯カメラがある通りは避けるんでしょうが、ここは裏通りで、防犯カメラもないから『死角』だと思われているんですよ。私も近所の人と二人で、掃除したりまとめたりしています。迷惑ですよね」(前述の女性)
問題はスーツケースだけを捨てるわけではなく、日本に滞在した際に出たゴミもまとめて置いていくというのだ。
実際に放置されたスーツケースの周囲には、分別ルールを無視した生ゴミや生活用品が捨てられていた。取材班が現場を歩くと、空っぽになったカップラーメンの容器や乳製品のパックなども散乱している。
それゆえに苦情も相次ぐ。別の近隣住民の60代の女性は憤りを隠さない。
「生ゴミとかも全部置いていくからね。ルールに不慣れな観光客は、ゴミを出す曜日なんて無視しちゃう。分別もしない。『ここにゴミがあるから、自分も置いていっちゃえ』っていう感じ。生ゴミが散乱して、カラスが大量に集まってくる始末です」
民泊事業者が明かす“スーツケース放置”の実態
こうした放置問題の背景にあるとされるのが、周辺に点在する民泊施設の存在だ。海外観光客向けの民泊を管理する事業者は、対策に追われながらも限界を口にする。
「利用者にはスーツケースなどのゴミを近隣に捨てて帰らないよう、徹底して注意喚起を行なっています。具体的には、チェックインガイドやハウスマニュアルにルールを明記しており、お客様がそれを見て確認する形です」
しかし、システム上の周知だけでは防ぎきれないのが実情だ。
「最終的にそのルールを守るかどうかは、やはりお客様のモラル次第という面はあります。守っていただけない場合に近隣の方からクレームが入り、こちらから再度お客様に連絡することもあります」
屋外への投棄だけでなく、室内に「残置物」として置いていかれるケースも多いという。
「清掃スタッフから『チェックアウト後の室内にスーツケースが残されている』という報告を受けることが月に数回あります。残されているものの多くは壊れているものがほとんどです。
これは池袋に限らず、他の地域の民泊施設でも起きています。基本的には屋外よりも、物件の中に置いていかれるケースが目立ちますね」
これに対し、事業者側はペナルティを設けて対応している。
「もし室内に置いていかれた場合は、処分費用として3000円をお客様に請求しています。大体のお客様は支払いに応じてくれます」
また、事業者によれば、昨今の円安の影響もあり、外国人観光客にとって日本でのスーツケース購入は割安感があるという。
そのため、日本で高品質な新しいスーツケースを買い、それまで使っていた中古のスーツケースを「処分」して帰るという行動パターンが定着してしまっているのだ。
「誰が捨てたか特定できない」行政が抱える回収の限界
一方、行政側はどう動いているのか。豊島区の担当者は現状をこう語る。
「ここ2年ほど、スーツケースの放置が増えてきているという認識は確かにあります。西池袋に限ったことではなく、池袋駅付近にもよく放置されています」
区は放置場所の特定や回収などの対策を講じているが、抜本的な解決はまだ遠いようだ。
そもそも豊島区において区民がスーツケースを処分する場合、事前申し込みの上、有料の「粗大ごみ処理券」を購入する必要がある。しかし別の担当者は、「外国人旅行者向けの制度は想定していない」と明かす。
今後、旅行者向けの回収制度などを整備する予定はあるのか。
「(制度を改善する以前に)外国人旅行者が放置しているなどと特定するのが難しい状況ですから。スーツケースを持って海外から来訪しているかたが多いと実感はしている。生活衛生などをはじめとする関係部署との連携は、現在取りつつあり対処しています」
合法的に粗大ゴミを捨てる「受け皿」が整備されていない現状。神社付近で響くカラスの鳴き声と、異物として積み上がるスーツケースの山は、当面消えそうにない。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班