斎藤知事が投稿、県立高校への投資「就任後、全国33位に上昇」は本当? 県教委「一般的な計算ではないかも」

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 兵庫県立高校の環境を充実させる投資とし、斎藤元彦知事は7月、交流サイト(SNS)で就任前の2020年度と就任後の23年度の「1校あたりの(投資の)決算額」について、47都道府県中「46位」から「33位」に上がったと投稿した。若者支援は斎藤知事が注力する公約の一つだが、この「46→33位」を検証すると、兵庫の特殊な事情が見えてくる。(ファクト検証取材班)

【詳報】県立高への投資「20年度46位→23年度33位」斎藤知事の投稿 20年度は大事業完了後

 県立学校の環境充実について県は23年度当初予算案で「6年間(23~28年度)で300億円の教育投資」を打ちだした。23年6月、斎藤知事は県立高校1校あたりの決算額が就任前の20年度に「46位」だったと公表。24年秋の知事選でも46位に触れて「就任前は全然子どもたちに予算がいってなかった」としていた。

7月13日にSNSに投稿された斎藤元彦知事のコメントと画像。県立高校の環境整備の重要性と、2020(令和2)、23(同5)年度の差について強調している

 ■独自の算出方法

 県教育委員会によると、このランキングは「300億円の投資」を強調するため、総務省の統計をもとに県教委が独自に算出した。具体的には、県立高校教育全般の「教育費」のうち、①普通建設事業費(県立高校にかかる施設整備など)②物件費(消耗品や光熱費、旅費)③維持補修費(修繕)-の3項目を選んで総額を計算。都道府県立高校の数で割って全国比較したという。

 県教委は「一般的ではないかもしれないが、知事の問題意識に沿って設備や備品などに関する経費を選んで比較した」と説明。神戸新聞もこの算出方法に従って計算したところ「46→33位」は正しかった。

 ■過去10年の推移

 次に、この算出方法で過去10年(14~23年度)の推移も調べた。すると、14年度は32位。16年度の31位が最も高く、そこから下降に転じて、20年度の46位が「底」になっていた。斎藤知事が就任して以降は21年度が33位、22年度は41位、23年度は33位だった。

 つまり、就任前にも30位台を推移した時期はある。20、23年度だけを比べて「就任前は全然子どもたちに予算がいってなかった」とは言い切れない。

 県教委は「校舎改修などのタイミングは自治体で異なり、年度ごとの支出額や順位は常に変わる」と説明する。16年度からの下降は多額を要する校舎の耐震化や、普通教室のエアコン設置が順次完了したことが主な要因で、20年度の急落の主な理由は新型コロナ禍による事業の先送りだ。その後の増額も就任前から計画されていた事業や物価高の影響が大きい。

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 ■教育費の総額

 ちなみに「46→33位」は教育費のうち設備や備品などに関する経費に絞っているが、ここに入っていない人件費などを含めた教育費の統計は、文科省でも公表している。

 そこで「都道府県立高校1校あたりの教育費総額」の順位を計算すると、14年度は15位で、17年度の10位を頂点に減少傾向へ入っていた。20年度は20位で、斎藤知事の就任以降は21年度18位、22年度26位、23年度24位となり、23年度の額は過去10年で最低だった。

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 施設建設や大規模改修などの「資本的支出」という文科省統計の区分で見ると、耐震化完了の影響もあって23年度は14年度の7割減となる。つまり、費用項目の抽出や、各統計が拾う費用の性質によってランキングは変わる。

 しかし、SNSでは斎藤知事のこれまでの発信を受け、次のような言説もある。「井戸前知事時代の教育予算は全国46位(ワースト2位)でした」(25年3月、ブログの転載。表示回数約140万回)「井戸さんが全国46位の予算でモタモタやってたのを斎藤さんが増やしたんだよ」(25年6月、同約4万5千回)

 ■県立高校数の多さ

 最後に1校あたりでなく、自治体別の支出額で全国順位を見てみる。すると文科省統計で「教育費総額」は14~23年度に7、8位をキープ。県が総務省統計で独自算出した「46→33位」は「12→10位」となる。

7月13日に斎藤元彦知事がSNSに投稿した画像。2020(令和2)、23(同5)年度の差について強調している

 では、総額では上位になるのに、1校あたりだと30~40位台になるのはなぜか。一つは兵庫の事情として、23年度で138校(中等教育学校含む)と全国5位に上る県立高校の多さがある。

 県教委によると、全国で統廃合が進む中、学校数を維持したまま、各校の学級数を減らして少子化に対応してきた経緯がある。ただ、各校の活力維持が大きな課題に。25年春には14校を6校にし、さらなる再編を検証している。こうした統廃合が進めば1校あたりのランキングは変化する。

 県教委は「再編で重視するのは学校環境の充実。お金は関係ない」としている。

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【参考にした主な資料】

斎藤元彦知事や県教委などの発信

・斎藤知事Xの投稿(2025年7月13日)

・兵庫県 2023年度当初予算案

・兵庫県教育委員会 教育投資の充実

・兵庫県議会 2023年6月第363回定例会(第2日 6月12日)

・兵庫県 知事就任3年目記者会見(2023年8月1日)

県教委が独自計算した総務省統計の「地方財政状況調査」

県教委が独自計算した総務省統計の「地方財政状況調査」

2014~23年度の各ページ内にある表番号11「歳出内訳及び財源内訳(その5)」を参照。

「005:教育費・高等学校費」から、行番号3「物件費」、同4「維持補修費」、いずれも普通建設事業費から補助事業費の同13「その団体で行うもの」、単独事業費の同18「その団体で行うもの」を抽出する。

文部科学省の「地方教育費調査」

文部科学省の「地方教育費調査」

2014~23年度の該当する会計年度の統計資料を使用。「都道府県別集計」から「支出項目別教育費」内の第26表「1高等学校合計(1)都道府県立」を参照する。2023年度は「設置者別高等学校教育費」の「第12表 設置者別高等学校教育費(中支出項目別)」から「(1) 高等学校合計 a.都道府県立」を用いる。※中等教育学校は除いて計算

学校数の算出に用いた文科省の「学校基本調査」

学校数の算出に用いた文科省の「学校基本調査」

2014~23年度「学校調査・学校通信教育調査(高等学校)」から①学校調査票(高等学校 全日制・定時制)の表番号122「都道府県別学校数」の都道府県立を抽出。②「学校通信教育調査票」の同156「学校数・学科数(本科)」から「公立の内訳」に該当する「学校数(独立校・併置校)」を合算。③学校調査票(中等教育学校)の同165「都道府県別学校数」の都道府県立を抽出。①~③を合算する。

政策に関する資料など

・第2期県立学校施設管理実施計画 (2期:令和4~令和8年度)

・兵庫県教育委員会 兵庫県特別支援教育第三次推進計画 2019年3月

・文部科学省 特別支援学校設置基準の公布等について(通知) 2021年9月24日

・県立特別支援学校における教育環境整備方針 2022年2月

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