〈目撃〉デッキブラシで体をかくウシ、初の道具使用例 硬軟使い分ける妙技を披露
オーストリアののどかな山あいの村に暮らすウシのベロニカは、何年もかけて、棒や熊手、デッキブラシなどを使って自分の体をかく技術を磨き上げてきた。その存在が科学者に発見され、ベロニカはこのたび正式に「道具を使うことが確認された初めてのウシ(Bos taurus)」として、1月19日付けで学術誌「Current Biology」で報告された。 【動画】デッキブラシで体をかくベロニカの妙技 ベロニカは舌を使って道具を持ち上げ、それをしっかりと口にくわえ込み、自分がかきたい箇所へと先端を向ける。道具がデッキブラシの場合、皮膚が分厚くて広い背中をかくときにはブラシ側を、柔らかく敏感な腹側には滑らかな棒状の持ち手側を使うなどして、柔軟に使いこなしていた。 ベロニカの行動を分析したオーストリア、ウィーン獣医大学の科学者らは、それが「道具の使用」にあたると論文で結論づけている。人類とウシはおよそ1万年から共生してきたにもかかわらず、ウシによる道具の使用が科学的に記録されたのはこれが初めてだ。 今回の発見は、ウシが私たちの想像以上に賢いこと、またベロニカ以外のウシたちも、機会があれば同様のスキルを身につけられる可能性を示唆していると、研究者らは述べている。
茶色い毛皮のウシ、ベロニカが身につけた技が科学者たちの目に止まったのは2025年のことだ。きっかけは、ウィーン獣医大学の認知生物学者アリス・アウエルスペルク氏が、動物の道具使用をテーマにした本を出版したことだった。 本が世に出てまもなく、氏のもとには、「自分のペットが道具を使っているのを見た」と主張する人々からのメールが殺到した。「うちのネコはAmazonの段ボール箱を道具として使っています、そこを自分の新しい家にしているんですよ、といった内容のメールが山ほど届きました」と氏は言う。 そうしたありふれた報告の中にひとつ、目を引くものがあった。動画の中で、ウシが熊手を持ち上げて臀部をかいていた。 「強く興味を引かれました」と氏は言う。「これはぜひとも直接見せてもらわなければと思ったんです」。アウエルスペルク氏はすぐに、同じウィーン獣医大学の博士研究員アントニオ・オスナ・マスカロ氏を伴って、ベロニカがいる家へと車を走らせた。 ベロニカの暮らしは、「何ひとつ不自由ない」という表現では言い表せないほど満ち足りたものだった。 心優しいパン職人のビトガー・ビーゲレさんは、ベロニカとその母ウシをペットとして飼っていた。森と、雪をかぶった山々に囲まれた絵のように美しい牧草地を、ベロニカは日々のんびりと歩き回っていた。現在13歳になるベロニカは、もう何年も前から、牧草地の囲い付近に落ちている棒や造園用の道具に気ままに触れたり、いじったりして過ごしてきたという。 こうした穏やかな暮らしを脅かす唯一の難点は、毎年夏になると襲来するアブだった。おそらくはこのアブを追い払ったり、アブに刺されたところをかいたりしたいという欲求が、ベロニカが自分の体をかく技術を習得するきっかけとなったのだろうと、研究者は考えている。 ベロニカの存在を知った研究者らは、彼女がほんとうに「道具を使っている」と言えるのかどうかを確かめる実験を行った。 道具使用の定義は「非常に厳格」だと、アウエルスペルク氏は言う。道具使用者として認められるには、動物が意図的に物体をつかみ、機能を有する部分を対象に向け、目的を達成するための機械的な相互作用を生み出さなければならない。