米中関税戦争の一時休戦、リセッション回避か-景気減速は避けられず

トランプ米政権による中国との暫定的な貿易合意は、米経済が年内に本格的なリセッション(景気後退)に陥るリスクを軽減するとしても、今年の景気減速の防止には間に合わなかったと、エコノミストらは指摘している。

  5月末までには雇用への打撃が労働市場のデータに表れ始める可能性があり、インフレの加速も来月発表予定の統計で顕在化すると見込まれている。

  こうした状況を踏まえると、12日公表された米中関税戦争の休戦措置を考慮しても、今年の米経済成長は前年よりも大きく減速する見通しだ。米中関税協議の合意に基づき米国は対中関税を30%に引き下げる。先月導入された145%の関税に比べてはるかに低いとはいえ、トランプ大統領が就任した1月時点と比べれば依然として大幅な引き上げと言える。

  EYのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は「今回の一時的な関税緩和は注目に値する緊張緩和ではあるが、景気減速を防ぐには至らない」と指摘。「需要の前倒しや高まる物価圧力、そして深刻な政策の不確実性が引き続き雇用と消費に重くのしかかる」と述べた。

  米中両国が12日に発表した90日間の関税引き下げは投資家の間で歓迎され、S&P500種株価指数は2カ月以上ぶりの高値をつけた。エコノミストの警鐘をよそに、経済活動の主要な指標は目に見える弱さをまだ示しておらず、金融市場には一定の支えとなっている。

  たとえば小売売上高は、3月に2年ぶりの大幅な伸びを記録。関税引き上げ前に消費者が購入を急いだことを示唆した。一方、労働市場では5月2日に発表された雇用統計で、4月最初の数週間に運輸・倉庫業界が需要急増に対応し採用を増やしたことが示された。

  今後の焦点は、家庭や企業が90日間の関税緩和期間を活用してさらに在庫の積み増しを行うかどうかだ。ムーディーズ・アナリティクスのチーフエコノミスト、マーク・ザンディ氏は懐疑的で、5月26日のメモリアルデーの祝日までに失業保険申請件数が増加し始め、6月の雇用統計で雇用の減速が明確になると見込んでいる。

  ザンディ氏は「見通しに変化はない。私は当局が近く中国や他国と合意に達し、貿易戦争を沈静化させると予想していたが、実際のところ戦争は続いている」と指摘。「前倒し需要の反動は今月から始まり、6月、7月にかけて続くだろう」との見方を示した。

原題:US-China Truce Likely to Avert Recession But Not Coming Slowdown(抜粋)

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