幸せを与えるのはゲームでもお金でも休暇でもない…子どもが「幸せな大人」に育つ家庭の"教育方針"【2025年8月BEST】 なんでも「よくやったね」とほめるのはリスクがある
「信頼型」の親は、子どものパフォーマンスへの関心が高く、厳格で、ルールにうるさいが、温かく、子どもの意思を尊重する。
こうした親に育てられた子どもは、自尊心が高いことが多い(※8)。
「支配型」の親は、状況を自分でコントロールしようとして、子どもを支配する傾向にある。子どもに解決策を考えるチャンスを与える間もなく、みずから乗り込んできて、自分のやり方を押しつける──これは自尊心を低める育児スタイルだ(※9)。
この手の親は「ヘリコプターペアレント」とも呼ばれる。ヘリコプターのように上空から子どもを監視し、少しでも問題があると、すぐに舞い降りてきて、自分で解決してしまう。支配的な親に育てられた子どもは、人に過剰に依存し、自分の置かれた状況を人のせいにしがちだ。
そして「消極型」の親は、やる気がないか、放任的で、子どもの成熟を遅らせることが多い(※10)。
※8 Litovsky, V. G. and Dusek, J. B. (1985), ‘Perceptions of child rearing and self-concept development during the early adolescent years’, Journal of Youth and Adolescence, 14(5), pp.373–87. ※9 Grolnick, W . and Ryan, R . (1989), ‘Parent styles associated with children’s self-regulation and competence in school’, Journal of Educational Psychology, 81(2), pp.143–54.
※10 Maccoby, E . E . and Martin, J . A . (1983), ‘Socialization in the context of the family’ in E. M . Hetherington and P. H. Mussen (eds.), Handbook of Child Psychology, Vol.4: Socialization, Personality, and Social Development (New York: Wiley), pp.1–101.
無視・抑圧はせず、指導・見守りをする
では、幸せな子どもを幸せな大人になるように育てるには、どうしたらいいのだろう?
報酬や称賛は、子どもの自尊心と自信を高め、困難な役割を引き受ける意欲を促すために重要だが、それは成功を導くようなものでなくてはならない。
ほめすぎると、子どもは大人に認められたことを喜ぶかもしれないが、成長は阻まれてしまう。
ブルース・フッド著・櫻井祐子訳『LIFE UNIVERSITY もし大学教授がよい人生を教えたら』(サンマーク出版)
どんな結果に終わっても「よくやったね」とほめられたら、子どもは成功と失敗の見分けがつかなくなる。やがて自主性を失い、ほめられなければ頑張れなくなるだろう。
一番よいのは、こんな方法だ。
子どもの取り組みに積極的に関心を持ち、必要な場合は励ましや助言を与えてサポートするが、根拠のないほめ言葉で甘やかさない。一歩下がって、失敗する機会を与え、そして子どもが自分を責めずに失敗から学べるように手を貸そう。
「親に愛されるために成功しなくては」というプレッシャーを取り除こう。指導し、成長を見守るが、無視したり、抑えつけたりしない。
子どもを束縛せず、協力的な環境を提供しよう。
(初公開日:2025年8月21日)
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また、1970年生まれの1万7000人の大人を対象とした別の研究では、「あなたは人生にどれだけ不満/満足を感じていますか?」と尋ねた(※4)。当時42歳だった回答者の満足度に最大の影響を与えた要因は、「幼児期の心の健康」だった。
幼児期の社会的交流は、大人になってからの行動の基盤となり、ひいては幸福度に影響をおよぼす。
なぜなら私たちは人との交わりを通じて、人生の挫折や難題にうまく対処する方法を学んでいくからだ。
年収や結婚相手、恋人など、人生の満足度に影響するあらゆる環境要因の中で、大人になってからのウェルビーイングを予測する最大の要因は、幼児期の他者との関係なのだ。
ではここで少し時間を取って、子どもの幸せと「自尊心」の関係を考えてみたい。
自尊心とは、自分自身に対して感じる価値のことで、幸せと密接な関連性がある。これは当たり前のことだ。自分に価値がないと感じると、幸せな気持ちになりにくい。
※4 Flèche, S., Lekfuangfu, W. N. and Clark, A. E. (2021), ‘The long-lasting effects of family and childhood on adult wellbeing: evidence from British cohort data’, Journal of Economic Behavior and Organization, 181, pp.290–311.
子どもをほめる「自尊心運動」の効果は?
自尊心の低さは、精神疾患や薬物乱用、犯罪、暴力など、成長してからのあらゆる社会問題の原因とされてきた。
1970年代以降、とくにアメリカで、社会問題の予防策として、子どもの学業成績を上げて自尊心を高めようとする動きが進められている。
私がアメリカで発達心理学者として働いていた頃も、子どもと関わる人が口々に「よくやったね!」というほめ言葉をかけることに驚いたものだ。
子どもが本当に頑張ったかどうかは問題ではなく、子どもを幸せな気分にさせるために、つねにほめることが習慣化していた。
この「自尊心運動」は、子育てにも教育界にも大きな影響をおよぼしているが、自尊心を上げて幸福度を高めることが有益な結果につながる、という前提を裏づける証拠はない。