日系社会に刻まれた皇室の確かな「ご足跡」、新天地へ渡った移民との絆 佳子さまブラジルご訪問同行記(1)

マリンガ文化体育協会で日系社会歓迎行事に出席された秋篠宮家の次女、佳子さま=8日、ブラジル・マリンガ(共同)

日本とブラジルの外交関係樹立130周年に際してブラジルを公式訪問されている秋篠宮ご夫妻の次女、佳子さま。ご訪問先は8都市に及びます。両国の歴史や、皇室との関わりをたどる節目のご訪問の詳細を、同行記者がつづります。

地球の真裏へ、丸1日の「大移動」

かつて多くの日系移民が「新天地」として夢を馳せ、海を渡ったブラジル。当時のような船旅とまではいかないものの、地球の真裏にある同国への移動は、たやすいものではない。

佳子さまが搭乗された民間機に記者も同乗したが、まず日本から米国への移動に約12時間。米国で数時間を過ごし、米国からブラジルへは、さらに約10時間かかった。

丸1日の「大移動」で、佳子さまがブラジル・サンパウロへ到着されたのは現地時間の5日午前10時前。曇り空に覆われたサンパウロは思いのほか寒く、日本とは季節が逆転した冬の始まりのような肌寒さだった。

「移民の家には必ずあった」肖像画

最初の滞在先であるサンパウロ州は、約130万人といわれる海外最大の日系社会が存在する。これまで、皇室の方々が日系移民に心を寄せられてこられたことは知識として知ってはいたが、実際に現場を取材すると、その「足跡」を多く見かけた。日系移民らにとって、皇室という存在が心の支えになっていることも、肌で感じ取れた。

「開拓先没者慰霊碑」に供花される佳子さま(代表撮影・共同)

5日午後2時半ごろ、佳子さまは開拓先没者慰霊碑にご献花。近くにある純和風建築の日本館へ足を運ばれた。日本館の敷地内には、秋篠宮ご夫妻(平成27年)、皇太子時代の上皇さまと上皇后さま(昭和42年)、上皇ご夫妻の長女の黒田清子さん(平成7年)など、皇室の方々がブラジル日系移民へ寄せられた「思い」の象徴ともいえる記念植樹が並んでいた。

佳子さまも、秋篠宮ご夫妻が植えられた木の隣に、サクラの木を新たに植樹された。

6日、佳子さまはブラジル日本移民史料館をご訪問。日系移民の資料などが展示されている施設で、移住初期の開拓者の家が再現されている。

ブラジル日本移民史料館では、再現された移住初期の開拓者の家に昭和天皇と香淳皇后の肖像が飾られていた(吉沢智美撮影)

再現された家の中には、昭和天皇と香淳皇后の肖像が飾られている。説明者いわく、「移民の家には必ずあった」。いかに皇室が、移民らの心のよりどころであったのかが見て取れた。

佳子さまはその後、歓迎行事やサンパウロ州知事主催のレセプションに臨まれた。

日系社会歓迎式典であいさつされる佳子さま(共同)

手作り郷土料理「本当においしいです」

7日はまさに分刻みのスケジュールだった。午前10時ごろ、サンパウロ近郊にある日系人らを受け入れている老人ホーム「憩の園」をご訪問。同施設にも皇室の方々は足を運ばれており、史料室にはその時の写真が飾られていた。

ブラジル・サンパウロ近郊の老人ホームを訪問し、花束を手にされる佳子さま(共同)日系老人ホーム「憩の園」を訪問され、入居者の日系人と言葉を交わされる佳子さま(共同)

午後1時過ぎには、サンパウロのホテルで、日系人のアーティストらとご懇談。午後3時前には、日本語教師の養成などを行っているブラジル日本語センターを訪問された。

同センターの矢野敬崇理事長は、感涙で声を震わせながら「殿下のご来訪を、私ども一同、心よりお持ち申し上げておりました」と語った。

その後、日本語学校が源流の松柏・大志万学園へ足を運び、日本語や日本文化などを学ぶ生徒らとご交流。手作りのブラジル料理などが用意されており、佳子さまは「ダジーニョ・デ・タピオカ」(タピオカとチーズの揚げ物)などを口に運び、「本当においしいです」と感想を伝えられた。

「松柏・大志万学園」を訪問し、伝統的なお菓子の説明を聞かれる佳子さま(代表撮影・共同)

ホテルに移動し、午後6時からは外務省元研修生、午後7時からはブラジル日本語センター主催の研修旅行参加者らとそれぞれご面会。これまで秋篠宮ご一家は来日した参加者を招き、交流を深められてきた経緯がある。佳子さまからは「20年前ですよね」「小学生だったと思います」と、当時を懐かしまれていた。

空港に「特に美しい日本のシンボル」

7日午後は、民間機で1時半ほどかけて、日系人の拠点の一つであるパラナ州のマリンガへ移動した。驚いたのが、空港のロータリーに、鳥居があること。総領事館の担当者によると「空港運営会社の社長が鳥居を特に美しい日本のシンボルだとして、移住100周年の記念に建てた。日系人が多いマリンガと日本の絆の強さを示している」とのことだった。

マリンガの空港のロータリーに建っていた鳥居(吉沢智美撮影)

佳子さまによる記念植樹が行われたマリンガ文化体育協会では、浩宮時代の天皇陛下(昭和57年)や、秋篠宮ご夫妻の長女の小室眞子さん(平成30年)が植樹された木があった。

その後の歓迎行事では、日系ブラジル人らによる和太鼓や、よさこいソーランが披露された。日系人が中心ではあるが、ブラジル人も参加。佳子さまは「日本の文化がここで有名になっているのは、うれしいです」と伝えられたという。

マリンガ文化体育協会で日系社会歓迎行事に出席し、和太鼓の演奏者らと交流される佳子さま(共同)

日本の皇族方は、昭和33年の三笠宮ご夫妻から始まり、繰り返しブラジルを訪問して日系人と交流を重ねてこられた。その歴史の一端を垣間見た気がした。(マリンガ 吉沢智美)

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