育児放棄で“母”はぬいぐるみ 子ザルの「パンチ」に応援殺到

 「現在、サル山の中にぬいぐるみを持った子ザルがいます」  千葉県市川市の市川市動植物園の公式X(ツイッター)で紹介された子ザル「パンチ」が話題だ。 【写真まとめ】ぬいぐるみを引きずりながら歩くパンチのけなげな姿  生後6カ月のオスのニホンザルだが、親ザルが育児放棄したため、飼育員による人工哺育で成長した。  母親代わりのオランウータンのぬいぐるみを抱えるけなげな姿が反響を呼び、パンチを応援するハッシュタグ「#がんばれパンチ」も登場した。  なぜぬいぐるみと過ごすことになったのか。パンチを育てる市川市動植物園の飼育員に話を聞いた。  ◇母ザルは初産でぐったり  パンチは2025年7月26日に500グラムで生まれた。  母親は真夏の初産で、出産でぐったりしていたという。パンチを育てる様子が見られず、翌日から飼育員の鹿野紘佑さん(24)と宮腰峻平さん(34)が人工哺育を始めた。  鹿野さんによると、親ザルによる育児放棄は一定割合で見られるという。  「初産の負担が影響したのかもしれません。サル山の群れでは他の母ザルが育児をするケースもあり、生まれた当日は距離を置いて見守りましたが、そうした兆候もありませんでした。パンチは元気だったので、いったん群れから離して、ミルクをあげ人工哺育を始めました」  ◇母ザルにしがみつけない代わりに…  この半年、鹿野さんたちはどうやってパンチを育ててきたのか。  通常は保育器で育てるところだが、鹿野さんたちは「いずれサル山にスムーズに入っていけるように」と、なるべく他のサルのにおいや鳴き声の近くで育てたという。  サルは生後まもなくから母ザルの毛にしがみついて安心感を得たり、筋力をつけたりする。  しかしパンチにはその機会がないため、筒状にしたタオルやさまざまな動物のぬいぐるみを与えて、代わりになる物を試したという。  その中でパンチが気に入ったのが、オランウータンのぬいぐるみだった。鹿野さんは「ぬいぐるみの毛があってつかみやすく、見た目もサルに似ているので安心感もあったのではないか」と話す。  夜に飼育員が離れた後はぬいぐるみと一緒に過ごし、寄り添って眠った。  「ぬいぐるみは母親代わりでした」  ◇「パンチくんを見て泣きそう」  鹿野さんたちは、少しずつパンチをサル山に置く時間を増やして慣らしていった。そして今年1月19日、本格的に群れに戻した。  当初は他のサルに警戒された。近寄ろうとして威嚇されることもあり、ぬいぐるみが手放せなかったという。  パンチがX上で話題になったのは、群れに戻した数日後、園の来場者が捉えたパンチの写真や動画が拡散されたことがきっかけだ。  動植物園の公式アカウントでも2月5日に初めてパンチを紹介したところ、投稿は8000回以上リポストされた。  翌日、ハッシュタグ「#がんばれパンチ」とともに、<みんなの応援をパンチに届けよう!>と呼びかけた投稿も反響を呼んだ。  SNS分析ツール「メルトウォーター」によると、5日以降の「#がんばれパンチ」の投稿やリポスト数は13日までに3万7000件にのぼった。  パンチの姿に感動した人の投稿も相次いでいる。  <がんばっているパンチくんを見て泣きそう>  <毎日このハッシュタグを見て泣くことが日課になっています>  <心が浄化される>  ハッシュタグを作成した市川市動植物園課の安永崇課長(52)は「パンチのことを知ってもらえてうれしいです。体感として例年よりも明らかに客足が増えています」と喜ぶ。  ◇群れとも交流「成長を感じる」  パンチは現在、約2キロに成長した。  まだ自力では十分な餌を食べられず、飼育員が与えている。飼育員にしがみついて離れなかったり、群れから離れてぽつんと過ごしていたりする時間も多い。  ただ、少しずつサル山に慣れ、他のサルとの交流も増えてきたという。  宮腰さんは「ぐいぐいと他のサルに絡んでいて、成長を感じます」と目を細める。  鹿野さんも「他のサルに怒られてもすぐにケロッと立ち直る。メンタルが強いです」と驚く。  14日には、大勢の人がパンチを一目見ようとサル山に詰めかけた。パンチがぬいぐるみと遊ぶと「可愛い」と声が上がり、しきりにシャッターを切る姿も。  千葉県船橋市の会社員男性(57)は「SNSの話題で知って来たが、生で見るとかわいさもひとしお。まだぬいぐるみを手放せないけれど、サル山になじんでいく姿を見届けたいです」と話していた。【待鳥航志】

毎日新聞
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