カテゴリAには責任がある。マリー・ダグラス[静岡ブルーレヴズ/LO]
国内 2025.05.17
[ 明石尚之 ]
静岡ブルーレヴズの頼れる男が帰ってくる。
第15節まで全試合に先発、ほぼすべての試合でフル出場していたマリー・ダグラスが、4試合ぶりに復帰する。
ブルーレヴズにとって初のプレーオフ、4月17日の準々決勝・コベルコ神戸スティーラーズ戦で背番号4をつける。
「今年は特別なことを達成できるような、そんな感じがしています」
スコットランド出身。アバディーン大では法律を学んだ。弁護士資格を持つ。
「私はワーキングクラス(労働者階級)と言いますか、みんなが職に就くことを求めているようなエリアで育ちました。もちろん、スポーツで成功することはとても良いことですが、それができない場合のキャリアを考える必要がありました。そこで、クオリティーの高い生活水準、安定した仕事が何かを考え、法律の学位を選びました」
ラグビーではユナイテッド・ラグビー・チャンピオンシップ(当時プロ12)のエディンバラに1シーズン在籍するも、以降は泣かず飛ばず。 新たな可能性を求め、オーストラリアに渡ったのは24歳の時だった。
「その時にたまたま、当時の彼女、いまの奥さんがメルボルンでドクターにならないか、というオファーをもらいました。私もそこで一緒に行くことを決めました」
2017年にレベルズとの契約を掴むまでの約2年間は、地元のアマチュアクラブでプレーしながら不動産関係の弁護士として働いた。 特にトライアウトを受けている「8週間」は、多忙を極めたという。
「朝の6時半から7時には仕事を始め、10時から3時半まで練習、それからオフィスに戻り、夜の8時から9時くらいまでまた仕事をしていました。帰ったらご飯を食べてすぐに寝るだけ…。いま振り返るとすごく大変でした」
プロラグビー選手の夢に向かい続けた原動力は、「やらなければ後悔する」の思いだ。
「トライアウトは一生に1回しかないチャンスだと思っています。その8週間の中で絶対にチャンスを掴み取ろうという気持ちがあり、後悔は絶対にしたくなかった」
だから、日々の仕事もこなしながらラグビーにも全力を注ぐ、日本の社員選手たちの気持ちも理解できる。
「そうした経験をしたからこそ、ラグビーをフルタイムでできていることはすごく運が良いと思っていますし、素晴らしいことをさせてもらえてるいるという感謝の気持ちでいっぱいです」
レベルズで1季、NZのハリケーンズで1季プレーし、2019年からは再び豪州に戻ってブランビーズに移籍した。 2020年シーズンのスーパーラグビーAUには決勝で先発し、優勝にも貢献した。
プロラグビー選手としての花がようやく咲き始めた頃、日本行きを決めた。30歳だった。
ブルーレヴズではしかし、ケガやカテゴリの関係でプレータイムを満足に得られない日々が続いた。 飛躍のシーズンとなったのは、加入4年目の昨季(2023-24)だ。全16試合中15試合に先発、11試合にフル出場とフル回転できた。
「日本のユニークなラグビーに、一貫性を持って対応できるようになったと思います。日本のラグビーはどこからでもアタックするアップテンポなラグビーです。ワークレートやスピード、スキルが必要でした」
体重も落とした。ブランビーズ在籍時は「118〜120キロ」。いまは「112〜114キロ」と6キロ減だ。
「80分間、しっかりプレーをできる体重です。走り続けたり、オフロードパスをしたり。そうしたラグビーが自分に合っていると思うし、楽しめています」
チームの武器となるスクラムを真ん中で押し、モールの核となり、チョークタックルで相手を止める。 総じて献身的に動き続け、渋く光る。
「自分にタレント性があるとは思っていません。では、どこで強みを出すか。タレント性がなくてもできること、ハードワークすることです。そこでチームに貢献できることはたくさんあります」
35歳となった今も、パフォーマンスは上がり続ける。 今季はカテゴリA登録にもなった。
「これまでのカテゴリでは、他の選手との兼ね合いで出る出ないが左右されました。自分のベストを出していても試合に出られない、自分の努力とは関係のないところで決まってしまっていた。ですが、カテゴリAは自分の力で掴める、運命を自分で決められます。その分、試合に出た時は責任感を持たなければいけない」
ブランビーズでの優勝経験から、プレーオフでは「先を見過ぎないことが大事」と知っている。 目の前の試合、目の前のプレーに、全力で身を投じる。