「カサンドラ症候群」に発達障害差別の声 当事者と家族の苦悩とは
自閉スペクトラム症(ASD)のパートナーとの関係に悩む人が、心身に不調をきたすことを意味する「カサンドラ症候群」。日本では2010年代以降、一種の社会問題として注目された。
これに対し近年、発達障害者への差別的用語だ、と指摘する声が上がっている。
しかし自身を「カサンドラ」と認識し、苦悩する人々がいるのも事実だ。どう考えればいいのか。
自身もASDの診断を受け、「カサンドラ」に関する論文も執筆している立命館大の髙木美歩・専門研究員(医療社会学)に聞いた。
<主な内容> ・語源はギリシャ神話 ・「発達障害」のイメージ変化の歴史 ・「カサンドラ」がはらむ差別意識とは ・浸透の背景に家庭内の「男女格差」も
・カップル間の関係改善、どうすればいい?
ASDとカサンドラ その意味は
自閉スペクトラム症とは、自閉症やアスペルガー症候群を含む発達障害の一種だ。
日本自閉症協会のホームページによると、コミュニケーションの難しさや、空間や特定の行動に対する強いこだわりなどの多様な特徴がある。また、注意欠如・多動症(ADHD)や学習障害(LD)、知的障害を伴うこともある。
一方、「カサンドラ症候群」とは何か。さまざまな精神科クリニックがホームページでこの問題を取り上げ、治療法や相談先を紹介している。
おおむね「ASD当事者のパートナーとのコミュニケーションでストレスを抱え、またそれが周りに理解されないことから、睡眠障害や抑うつなど心身不調に陥る状態」と説明されている。
語源はギリシャ神話
「カサンドラ」は、ギリシャ神話の登場人物だ。
トロイ王の娘カサンドラはアポロンに愛され予知の力を授かった。しかしその力ゆえにアポロンに捨てられる未来を予感し、求愛を拒絶すると、今度はアポロンに呪いをかけられ、誰にも予言を信じてもらえなくなった――。
ASD当事者のパートナーの悩みは周囲に理解されにくいという状況がこの神話と重なることから、2000年前後に欧米で「カサンドラ・フェノメノン(現象)」と呼ばれるようになった。
日本では「カサンドラ症候群」という用語で定着したが、医学的な疾患としては認められていない。
認知広がるも近年は批判
日本で認知が広がったのは10年代だ。「カサンドラ症候群」に関する書籍が相次いで出版され、各地で自助グループをつくる動きも広がった。
毎日新聞も、18年に初めて取り上げた。自助グループに参加した女性の「同じ立場の人がいると知り、救いになった」という声を紹介している。
しかし近年、この用語は障害者差別を助長するとの指摘が当事者らから上がるようになった。
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