トランプ政権、人権報告書を大幅に書き換え縮小
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アメリカのドナルド・トランプ政権は、世界各地の人権侵害に関する米政府の年次報告書を大幅に書き換え、分量を減らした。12日に報告書が公表された。
この報告書は米国務省が出している。この種の調査としては、どの政府のものより最も包括的とみなされてきた。
しかし今回、イスラエルやエルサルバドルなどアメリカの友好国への批判が大幅に減少。一方で、ブラジルや南アフリカといった敵対国への非難が強まっている。
また、これまでの報告書にあった複数の項目がごっそり削除されており、政府の腐敗やLGBTQ+(性的少数者)への迫害などの問題への言及が大幅に減っている。
国務省の関係者らは、「冗長な部分を削除」し、「読みやすさ向上」のために「再編成」されたと説明している。
今年の報告書は、イギリス、フランス、ドイツなど、アメリカの最も親密な同盟国の一部で人権状況が「悪化」しているとし、オンライン上のヘイトスピーチの規制が原因だとしている。
こうした説明は、トランプ政権や、一部の米ハイテク企業のトップらのこれまでの発言と呼応している。それらの人々は、ヨーロッパの一部の国におけるオンライン被害軽減のための法律について、言論の自由への攻撃だとして反対している。
元国務省高官で、現在は慈善団体「ヒューマン・ライツ・ファースト」を運営するウズラ・ゼヤ氏はBBCに、トランプ政権について、人権保護に関して高く評価されてきた数十年にわたる活動を「根底から覆し」、アメリカの「核となる価値観を放棄」していると非難した。
「アメリカ政府はフリーパスを出す、というシグナルを送っている。一国の政府が、この(トランプ)政権と取引したり、言いなりになったりするなら、アメリカは見て見ぬふりをすると示唆している」
報告書はイギリスについて、「重大な人権問題」がみられると非難し、「表現の自由が深刻に制限されているとの信頼できる報告」などがあるとしている。また、人権侵害に対する訴追と処罰に「一貫性がない」としている。
これに対し、英政府の報道官は、「言論の自由は、ここイギリスを含む世界中の民主主義にとって不可欠なものであり、私たちは市民の安全を守りながら自由を擁護していることを誇りに思っている」としている。
一方、トランプ政権がたびたび批判しているブラジルについては、今回の報告書は「言論の自由を損なう不均衡な対応」がみられると強調している。
イギリスもブラジルもこれまでは、アメリカによる同様の批判をはねつけている。
イスラエルと、パレスチナのヨルダン川西岸とガザに関する項目では、進行中の戦争が「人権侵害の報告の増加につながった」と、報告書は書いている。
一方で、「政府は人権侵害を犯した政府関係者を特定するために、いくつかの信頼できる措置をとった」と続けている。また、イスラム組織のハマスとヒズボラを戦争犯罪で非難している。両組織は、そうした批判は当たらないとしている。
ICCは、ガザ地区で続く戦争において戦争犯罪や人道に対する罪があったとし、ネタニヤフ首相とガラント前国防相とデイフ司令官の3人がそれについて「刑事責任」を負う「合理的根拠」があると結論づけている。イスラエルもハマスも、戦争犯罪や人道に対する罪の疑いを否定している。
また、エルサルバドルに関しては、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが「恣意(しい)的な拘束と人権侵害」、さらには「非人道的な拘束環境」を指摘しているにもかかわらず、米政権の報告書は「重大な人権侵害に関する信頼できる報告はない」と結論づけている。
今年の報告書は例年より数カ月遅れで公表された。その背景には、国務省内で、報告書の内容に関する激しい意見対立があったと報じられている。
今年初めには、政治指導者らから職員に対し、報告書の簡略化と、汚職やジェンダーに基づく犯罪などへの言及を削除するよう助言する内部指針が出されていた。また、トランプ氏はこれらに関連した大統領令に署名しており、今回の報告書はそうした方針に沿ったとみられる。
トランプ氏は5月にサウジアラビアを訪問した際、「西側の介入主義者」をとがめ、アメリカはもはや、「あなた方の国での生活や統治の方法を、あなた方に説教することはない」と述べていた。