有罪揺るがす証拠、5人の検察官が把握も開示せず 福井事件で報告書
福井市で1986年に起きた女子中学生殺害事件をめぐり、殺人罪で服役した前川彰司さん(61)の再審無罪が昨年に確定したことを受け、名古屋高検は10日、公判担当の検察官らを聴取した調査結果を報告書にまとめ、公表した。 【写真】「では、真犯人は?」と問う福井事件の被害者遺族 再審無罪の決め手となった証拠の存在を、第1次再審請求審に関与した少なくとも5人の検察官が把握していたと認定した。「早期に裁判所に提出されていれば、再審開始が決定していた可能性も十分に考えられる」と指摘し、「一貫して反省すべきだ」と総括した。 事件では一審段階から有罪を揺るがす「捜査報告書」があり、検察が有罪立証の支えとした重要証言に出てくるテレビ番組の放映日が誤りだと示していた。しかし、担当検察官は報告書の存在を明かさず、有罪主張を続けた。前川さんは一審は無罪となったが、二審で懲役7年の有罪判決を受け、97年に確定した。 前川さんの第1次再審請求に対し、名古屋高裁金沢支部は2011年、再審開始を決定。しかし、検察はこの捜査報告書を証拠開示せずに1回目の再審開始決定に異議を申し立て、再審開始決定は取り消され、再審開始が確定するまでさらに13年を要した。 今回の調査の結果、第1次請求審に関与した少なくとも5人の検察官が、捜査報告書の内容と従前の主張や証拠に齟齬(そご)があると認識していたと認定。だが、捜査報告書は裏付けの一つに過ぎず、有罪は揺るがないと判断し、証拠として提出・開示するなど「適切な是正措置」を講じなかったとした。 そのうえで、捜査報告書が裁判所に提出されていれば、関係者の供述の信用性が争点となり、立証構造にゆらぎが生じ、再審開始が決定していた可能性があると指摘。適切な是正措置を講じないまま、異議申し立てがなされるべきではなく、反省すべきだと総括した。 ■一審担当検察官への聞き取りは実現せず また一審の公判を担当した検察官も捜査報告書の内容との食い違いを認識していたと指摘。調査では17人の検察官を聴取したが、この検察官は聴取できなかったという。是正をしなかった理由を「立証の一部が誤っていたことになり、証拠の一部が失われる事態を避けようとした」と言及した。 高検の浜克彦次席検事は「国民の検察に対する不信を招いたことを真摯(しんし)に反省し、適切な対応に努める」とコメントした。 最高検は「国民の信頼に十分応えることができるよう、適正な検察権行使に一層努める」とした。 ■前川さん「再審判決の後追い」と指摘 前川さんは検証結果について「再審判決を後追いしただけで踏み込んだものには見えない。満足できるものではないが、やらないよりはやる方がいい。検証したこと自体は評価したい」と話した。 検証が始まるにあたって「司法の暗闇に光がともるようなものであってほしい」と述べていた。それから約2カ月。「暗闇の部屋に、ろうそくを持った従者は入ったのかもしれないけれど、部屋一面が明るくなったかというととんでもない話」という。事件そのものが解明されたわけではないと感じている。 第1次請求審の段階で、5人の検察官は齟齬に気づいていたのに、捜査報告書は開示の必要性がないと判断されていた。「(有罪を支えた)証言がつながらなくなるのに、何を言っているのか」とため息をつく。 国会で再審制度見直しが審議される中、「証拠を開示させる制度の必要性を国民が考えるきっかけになってほしい」と話す。 前川さんは14日、再審制度を見直す政府法案を審議している参院法務委員会に出席し、参考人として意見を述べる予定だ。再審手続きをめぐり、検察の証拠開示に対する姿勢が改めて問われることになりそうだ。(松島研人、荻原千明、二階堂友紀)
朝日新聞社