「30年で人が消えた街」 岐阜“LRT構想”は再生か破綻か? 1.7兆円借金県の危うい「大博打」
10月中旬の3連休初日というのに、昼どきの人出はわずか。シャッターを閉じた店舗も目立つ。JR岐阜駅(岐阜市)から北へ歩いて約15分、昭和のヒット曲「柳ヶ瀬ブルース」で知られる繁華街の柳ヶ瀬に、東海地方を代表する繁華街だった過去の面影はない。
閉店した高島屋やドン・キホーテが入っていたビルは放置されたまま。
「30年ほどで街が一変した。昔は名古屋から遊びに来る人もいたのに」
商店街の喫煙所で一服する女性がため息をつく。郊外型商業施設との競争、路面電車の名古屋鉄道岐阜市内線廃止も衰退に拍車を掛けた。
岐阜市が2024年9月に調査した柳ヶ瀬内39か所合計の休日通行量は、1日当たり約5万9000人。
・1982(昭和57)年の11.9% ・2000(平成12)年の29.9%
まで落ち込んだ。地区には八つの商店街があり、約230の店が営業しているが、苦境は深刻だ。
都市の回遊性向上
LRTの想定路線(画像:岐阜県)江崎禎英(よしひで)岐阜県知事は打開策として次世代型路面電車(LRT)の整備検討を打ち出した。県はコース案として
・JR岐阜駅から長良川沿い、岐阜城などを巡る岐阜市中心部循環ルート ・長良川にかかる忠節橋から岐阜大、岐阜インターチェンジ(IC)へ向かう岐阜市北ルート
・JR岐阜駅から岐阜県庁、岐阜羽島駅を目指す南ルート
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課題のひとつと考えられるのが財政負担だ。3ルート整備だと、総延長は20kmを超しそうで、栃木県宇都宮市と芳賀町で運行するLRTの14.6kmを上回る。宇都宮LRTの整備費は
「684億円」
かなり高額の整備費になるのは間違いない。
岐阜県の財政状況は過去の箱物行政などが響き、硬直化している。2024年度末現在で県の借金に当たる県債発行残高は約1兆7000億円、貯金に当たる財政調整基金残高は約300億円。2025年一般会計当初予算では人件費や公債費など義務的経費が歳出の約7割を占めた。
基金を取り崩して予算編成をしている苦しい状況で、2026年度予算編成では全職員に事業見直しの提案を求めている。県はLRT整備に国の支援を最大限活用する考えだが、予算確保は簡単でない。
想定ルートの大半を占める岐阜市は実現に向けた課題をひとつずつ精査する考え。岐阜市交通政策課は
「架線を使わない最新LRTが運行する台湾3路線を年度内に視察する」
としているが、名鉄名古屋本線の高架化や市街地再開発事業を抱え、LRTだけに投資を集中できない事情を抱えている。
岐阜羽島駅がある羽島市は人口6万人強の小規模自治体。羽島市総合政策課は財政負担を警戒するのか、「構想内容が具体化するまで何ともいえない」と慎重な口ぶりだが、
「岐阜羽島駅周辺を活性化したい気持ちはある。今は県の調査を見守りたい」
と述べた。