〈目撃〉ホホジロザメもイタチザメも撃退、シビレエイの驚異の防御術が判明 「強力な一撃」

 シビレエイは世界中の温帯と熱帯の海に生息し、ほとんどの種は体長1メートル以下だ。しかし、Tetronarce nobilianaなど、体長2メートル、体重100キロ近くに達する種もいる。  これらの大きなシビレエイは200ボルト以上の電圧を発生させられる。これは人間を吹き飛ばすのに十分な強さだ。  エイの神経系が刺激を受けると、頭の両側にある腎臓のような器官から荷電イオンが放出される。この放電は通常、小さな動物を捕食するために使われる。  ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるパパスタマティウ氏によれば、シビレエイは人間や大きなサメにも臆せず近づくことで知られているという。「一般的に、それほど大胆な行動をとるのは、防御力にかなりの自信があるためです」

 パパスタマティウ氏は2018年、メキシコのグアダルーペ島沖でホホジロザメの捕食行動を研究していたとき、シビレエイの大胆さを初めて目の当たりにした。パパスタマティウ氏らは研究のため、6頭のサメの背びれにカメラを取り付けていた。  そのカメラに収められていたある動画で、ホホジロザメがゴマフシビレエイ(Tetronarce californica)に接近した。サメが攻撃可能な距離に近づくと、エイは胸びれをカップのような形にして、獲物を攻撃するときの典型的な姿勢をとった。  すると「サメが突然暴れ出し、飛び上がりました」とパパスタマティウ氏は振り返る。「何かが本当にサメを刺激したのです」  2分後、サメは戻ってきたが、今度はエイを無視して泳ぎ去った。おそらく教訓を得たのだろう。  すべてのサメは、生物が発する微弱な電場を感知できる感覚器官をもっている。そのため、電気にとても敏感だ。しかし、危険を顧みず、何でも食べようとする傾向から、自分たちが見たものは偶然かもしれないとパパスタマティウ氏らは目を疑った。  2024年、アリ・アンサール氏というスキューバダイビングのインストラクターがモルディブ、フバンムラ島の海で、シビレエイの一種Torpedo sinuspersiciとイタチザメのよく似たシーンを撮影した。パパスタマティウ氏はこの動画を見て、自分が目にしたものは偶然の産物ではないと確信した。  パパスタマティウ氏らは研究の一環として、1990年代後半に米国カリフォルニア州パロスベルデス半島の沖で実施したゴマフシビレエイの実験を含む過去の動画を再分析し、この行動のさらなる実例を発見した。  捕食時と防御時の放電の違いを観察するため、研究チームはゴマフシビレエイに捕まえたばかりの魚を与えたり、棒で背中を突いたりした。シビレエイはどちらの刺激に対しても、同様の強い電圧を発生させたが、突く刺激に対しては、より短く速い放電が誘発された。 「防御のためであれば、素早い一撃は理にかなっています」とパパスタマティウ氏は言う。「これらの動物は本質的にバッテリーのようなもので、すべてのバッテリーがそうであるように、再充電には時間がかかります」


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 この研究はゴマフシビレエイとTorpedo sinuspersiciのみを対象としているため、すべてのシビレエイに大きなサメを追い払う能力があるかを判断するにはさらなる研究が必要だ。米サンノゼ州立大学のサメ研究者デイブ・エバート氏は、シビレエイがサメを追い払う能力は、その大きさによって異なる可能性が高いと述べている。エバート氏は今回の研究に参加していない。  エバート氏は大きなサメの腹からほかの種類のシビレエイを発見したことがある。「それら(が十分に小さいもの)であれば、おそらくサメは食べることができます」。小型または幼いエイは、サメを追い払うのに十分な電気を生み出せないかもしれないが、大きなエイの電気ショックは文字通り、サメの顎から逃れるのに十分だろう。  エバート氏は、サメの大きなかみ痕があるシビレエイを見たこともある。「かみ痕から、サメがかむのをやめたことがわかりました」  パパスタマティウ氏らは今回の発見について、シビレエイの防御能力に関するこれまでの認識を一変させるだけでなく、電気ショックが大きなサメを追い払う有効な手段であるという考えを裏付けるものでもあると考えている。この教訓は、私たち人間にとっても、サメを追い払うより良い方法の設計につながる可能性がある。  しかし何よりも、この行動はシビレエイを軽視してはならないことを示している。「電気エイは強力な一撃をもっています」とエバート氏は強調する。「通常は攻撃しませんが、からかうと、あなたを気絶させるでしょう」

文=Annie Roth/訳=米井香織

ナショナル ジオグラフィック日本版

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