認知機能の弱さが原因で少年院に入った少年…どう向き合えばいいのか?『ケーキの切れない非行少年たち』著者・宮口幸治氏に聞く

コミック『ケーキの切れない非行少年たち』の原作者・宮口幸治氏

「目の前にあるのは丸いケーキの絵です。これを3等分してみてください」

さて、あなたならどう切り分けますか? 質問の意図を考えれば、中心から放射線状に線を書いて3等分するだろう。

しかし、少年院に入ってくる少年たちには、適切に3等分することが出来ず、タテに直線を2本引いてしまう例もあるという。

このことを新書『ケーキの切れない非行少年たち』で世間に知らしめたのが、児童精神科医の宮口幸治氏だ。

同書は現在の基準では知的障害とまでは言えないが、知能指数で言えば70~84程度の「境界知能」、学校・社会で気づかれてこなかった軽度知的障害に当てはまる非行少年を取り上げた一冊で、コミック化もされている。

今回、同書をコミック化した『ケーキの切れない非行少年たち』の11巻の刊行に合わせて、医療少年院や女子少年院で数多くの少年たちと向き合ってきた宮口氏に、これまでの経験で得てきたことやコミック作品にした想い、子育てに悩む家庭へのアドバイスを聞いた。

「気づかれない非行少年たち」

――作品タイトルにもなっていますが、ケーキを三等分できない非行少年が多いという事実は、とても衝撃的でした。

宮口 あのテストは、もともと少年院で実施していたわけではありません。以前、勤務していた児童精神科の外来でやっていたんですよ。小学校低学年の子だったら、発達の課題として、三等分できない子はいます。だから最初は「非行少年にもやってみようか」くらいの、ちょっとした思いつきでした。「どんな反応が返ってくるかな」と軽い気持ちだったんですけど、そうしたら小さい子と同じような切り方をしている非行少年が少なくなかったんですよ。しかも、そういった少年たちが、一方では凶悪犯罪をやっている。それにすごく驚きました。

――少年院には、そういった非行少年が多く入院してくるのでしょうか。

宮口 私が勤務していた医療少年院は、発達障害とか軽度知的障害、境界知能の少年が集まるところです。

――近年、境界知能に対する注目度が上がっています。本作では小平恵(4巻第20話~5巻第23話)がそれに該当し、このエピソードはNHK BS1でのテレビドラマ(2023年6月20日放映)の原作にもなりました。

宮口 IQというのは、その年齢の子どもたちの全国平均を基準にして出すんです。平均がちょうど100になります。受験の偏差値と似た仕組みですね。1標準偏差が15なので、85~115の範囲は「だいたい平均的」とされます。100を基準として2標準偏差下がった69以下が知的障害、70~84が境界知能とされています。境界知能は知的障害と診断される水準ではないので、福祉などの支援を受けられず、学業や社会生活に困難が出やすいんですよ。割合的には人口の14%と、これは相当な数です。今後、教育や福祉など様々な分野で注目し、対応していただきたいところですね。ただ、作中では境界知能を題材にしましたが、それだけを扱ったつもりはないんですよ。

ケーキを三等分する線を描けない少年もいる

――と言いますと?

宮口 もともと私が問題視していたのは軽度知的障害(IQ50~69)の人たちなんです。本来であれば福祉の対象として支援していかなければならないのですが、中には周囲に気づかれず、社会的にしんどい思いをしています。そして、最悪のパターンとして、犯罪に結びついてしまう。そこを訴えたかったんですよ。ただ、1980年代頃には、境界知能も軽度知的障害に分類されていました。それが現在では障害として扱われなくなったのは、単に定義上の区分が変わったからなんです。つまり境界知能の子たちも、軽度知的障害と同様にしんどい思いをしている。それを知ってもらいたかったんですよ。

――なぜ軽度知的障害や境界知能は気づかれにくいのでしょうか?

宮口 困難を抱えた子が、自分から「僕に課題があるから診てください」と病院に来ることはないですからね。やはり周囲にいる保護者や先生が「これは病院で診てもらわないといけないな」と判断し、病院に連れてきてから気づかれるものです。じゃあ、周りに気づいてくれる人がいない環境にいる子はどうなるか? 犯罪・非行をやってしまい、加害者となり、警察に逮捕されて少年鑑別所に行き、そこではじめて彼らの課題が気づかれるわけです。ただ、誤解のないように言っておきますが、IQが低いとか障害があるからといって、それが原因で犯罪をするわけではありません。

宮口幸治『ケーキの切れない非行少年たち』原作者/インタビュー構成・文:加山竜司(ライター)

2025年9月18日 掲載 ※この記事の内容は掲載当時のものです

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