28億光年先で発生した「高速X線トランジェント」その起源は超新星?
遠方の銀河で発生する「高速X線トランジェント(Fast X-ray Transient: FXT)」。
謎だったFXTの起源に迫る研究成果を、2つの国際的な研究チームが相次いで発表しました。
FXTは、数秒から数時間だけ強力なX線放射が継続する現象です。
1970年代から検出されていたものの、その起源は数十年にわたって解明されていませんでした。
高速X線トランジェントは“失敗したガンマ線バースト”?
【▲ 超新星「SN 2025kg」の検出から約7日後・約21日後・約67日後の様子を示した画像(Credit: International Gemini Observatory/NOIRLab/NSF/AURA; Acknowledgment: PI: J. Rastinejad (Northwestern University); Image processing: J. Miller & M. Rodriguez (International Gemini Observatory/NSF NOIRLab), M. Zamani (NSF NOIRLab))】強力な手がかりとなったのは、CAS=中国科学院の天文観測衛星「天関(Einstein Probe=アインシュタインプローブ)」が2025年1月にエリダヌス座で検出したFXT「EP 250108a」です。
迅速な追跡観測が行われた結果、対応する位置で大質量星が起源の超新星「SN 2025kg」を検出。
約28億光年先で発生した一連の現象を分析したところ、EP 250108aはガンマ線バースト(Gamma-ray Burst: GRB)のバリエーションのひとつだった可能性が高いことが明らかになりました。
NSF NOIRLab=アメリカ国立科学財団の国立光学・赤外天文学研究所は、EP 250108aを“失敗した”GRBと表現しています。
GRBは短時間で爆発的なガンマ線が放出される現象です。継続時間が2秒程度以下はショートガンマ線バースト(ショートGRB)、2秒程度以上はロングガンマ線バースト(ロングGRB)と呼ばれています。
このうち、ロングGRBは大質量星が引き起こす超新星の一種(Ic-BL型超新星)が起源だと考えられています。
大質量星の中心部が崩壊してブラックホールが誕生すると、そこへ向かった周囲の物質の一部が高速で放出されて相対論的ジェットを形成。
このジェットが星の外層を突き破ることで、数秒から数分間続くロングGRBとして観測される、というプロセスが想定されています。
ところが、SN 2025kgではジェットが外層を突き破れず、星の内部に閉じ込められたことで運動エネルギーがX線に変換され、GRBではなくFXTとして観測されたとみられています。
【▲ 恒星中心部の崩壊にともなうブラックホール誕生に続いて生成されたジェットの様子を示した図。ジェットが外層を突き破るとガンマ線バースト(GRB)になるが、SN 2025kgではジェットが恒星内部に閉じ込められたままとなり、高速X線トランジェント(FXT)として観測されたと考えられている(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center/Chris Smith (KBRwyle))】2024年1月に打ち上げられた天関は毎月数件のFXTを検出していて、毎年1件程度が検出されるGRBと比較しても頻度が高いことから、FXTはGRBよりも一般的な現象の可能性が高いことが示唆されるといいます。
研究チームが指摘するように、今回の発見は多様な恒星の死についての理解を深め、恒星進化の全体像をより深く調査することの必要性を示していると言えそうです。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部