小さな液滴を操作して実験できるガジェット「OpenDrop」でパックマンやヘビゲームをプレイする動画
「OpenDrop」は、電気の力を利用することで微小な液滴を制御して、さまざまな実験を行えるマイクロ流体プラットフォームです。そんなOpenDropを使ってパックマンやヘビゲーム(スネークゲーム)をプレイした動画を、科学系YouTuberのスティーブ・モールド氏が公開しています。
I Played Snake With Water - YouTube
金属製のボードの上をカラフルな液滴が動いています。
一見するとCGのようにも見えますが、これらは本物の液体です。
OpenDropはさまざまな液体を自由に操作できる研究用デバイスですが、モールド氏はこれでパックマンやヘビゲームなどをプレイすることにしました。
素のOpenDropはジョイスティックで液滴を操作できるものの、残念ながらそのままではゲームをプレイできません。
確かに液滴をつなげることで、ヘビゲームのヘビのようなものを作ることは可能ですが、ゲームをするには独自のコードを書かなくてはならないとのこと。
そこでモールド氏はスイスに赴き、OpenDropの開発者であるゴードン氏に直接話を聞くことにしました。
モールド氏はラボを紹介してもらい、さまざまなコード層と自分で変更を加えられるエントリポイントも教えてもらったとのこと。
その結果、OpenDropは基本的にArduinoの互換デバイスであり、JAVAで書いたコードを用いてOpenDrop上でヘビゲームなどのゲームをプレイできることがわかりました。
モールド氏はJAVAの経験がなかったため、Microsoft Copilotを用いてバイブコーディングを行いました。
そもそもOpenDropでは、電気を使って金属製ボードのマスの疎水性と親水性を切り替えることで液滴を操作しています。
疎水性とは水に対する親和性が低い物理的特性のことで、疎水性の物体の表面には水がほとんど引き寄せられず、結果として玉状にななります。
逆に親水性は水との間に親和性を示す物理的特性のことで、表面が水を引き寄せるために水はべたっと平らに貼り付きます。
OpenDropのマスはそれぞれが電極となっており、電圧がかかると表面が帯電します。
水分子は水素原子側が正に帯電し、酸素原子側が負に帯電する構造となっています。負に帯電した表面がある場合、水分子の水素原子側が表面に引きつけられる一方、酸素原子側は表面に反発するとのこと。
その結果、水分子は表面から離れることなく貼り付きます。つまり、負に帯電した表面は親水性があるというわけです。
科学者らは表面に電圧を加えることで濡れ方を変化させるこの現象を、エレクトロウェッティングと呼んでいます。
OpenDropでは個々のマスの帯電を切り替えることによって液滴を移動させます。たとえば以下の状態は、矢印で示したマスが帯電しており、液滴がそのマスに引き寄せられています。
その電極をオフにして隣のマスを帯電させると、液滴は隣に移動しました。液滴はこのようにして1マスずつ移動できるという仕組みです。
OpenDropでは複数の液滴を同時に操作できます。
しかし、液滴同士がぶつかると1つに融合し、二度と分離することができません。
これは欠点のように思うかもしれませんが、行き交う車に触れないように道路を渡るフロッガーや、獲物を追いかけて捕食していくパックマンのようなゲームにおいては、ぶつかること自体がゲームオーバーを意味するため問題ありません。
モールド氏はOpenDropでフロッガーを再現するため、車役の液滴が左右の端で折り返すように設定しました。
なお、フロッガーのコードを実行している時は、付属のジョイスティックで液滴を操作できません。そのため、車役の液滴に触れないように横断するカエル役の液滴は、接続したノートPCの矢印キーで操作する仕組みだとのこと。
OpenDropでフロッガーをプレイする様子。赤い液滴が障害物である車役、黒い液滴がそれを避けて横断するカエル役です。
上手にカエル役の液滴を操作し、端まで横断させることができました。
OpenDropではパックマンも再現できます。
黄色い液滴がパックマンとして、ターゲットの液滴を追いかけ回します。
ターゲットの液滴にぶつかると飲み込むことができます。
なお、オリジナルのパックマンではいくら食べても大きさは変わりませんが、OpenDropでプレイするパックマンでは液滴同士が融合するたびに一回り大きくなります。そのため、最終的には大きなパックマンで小さなターゲットを追い回す構図となります。
これはこれで楽しいものの、オリジナルとは異なるものです。
一方、ヘビゲームではターゲットを食べるほどヘビも大きくなるため、OpenDropではより忠実に再現可能です。
何もしない状態では、OpenDrop上の液滴が表面張力によって丸くなってしまうため、ヘビの形を生み出すことはできません。
しかし、OpenDropには透明のガラス板が付属しており、これをかぶせることで液滴を挟み、水の形状を整えることができます。
ガラス板に挟まれた液滴は以下のように平らになります。
これによってさまざまな形状の液滴を作り出すことが可能。
OpenDropではさまざまな濃度の液体を操作して希釈工程を自動化したり、テストを行ったりすることが可能です。しかしモールド氏にとって重要なのは、これによって「ヘビ」の形状を作ることができるという点です。
通常、ヘビゲームでは画面上に現れた「フルーツ」を捕食すると、別の場所にランダムで「フルーツ」が登場します。
これを再現するため、モールド氏はヘビがフルーツを捕食した後に停止時間を設け、その間に新しいフルーツを所定の位置に移動させるという設計にしました。
OpenDropでヘビゲームをプレイする様子はこんな感じ。ボードの右下にある赤枠で囲ったフルーツにヘビが向かいます。
ヘビがフルーツを捕食。
すると別の場所にフルーツが配置されました。
これを繰り返すことで、どんどんヘビを大きくして遊ぶことが可能です。
「OpenDrop」は以下の公式ページから購入可能で、ベーシックな「OpenDrop V4」の価格は975ユーロ(約16万9000円)となっています。また、日本への配送には配送料として68ユーロ(約1万1800円)が必要となるほか、別途税金や通関手数料なども購入者負担となるようです。
OpenDrop Digital Microfluidics – GaudiShop
https://gaudishop.ch/index.php/product-category/opendrop/ また、「OpenDrop」のハードウェアとソフトウェアの設計はGitHubで公開されており、専門知識があればユーザー自身の手で好きな形状のデバイスを作ることも可能です。GitHub - GaudiLabs/OpenDrop: Open Source Digital Microfluidics Bio Lab
https://github.com/GaudiLabs/OpenDrop・関連記事 永久機関を実現してしまったような置物の仕組みとは? - GIGAZINE
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