井上尚弥がショックを受けた「ウエルター級の世界の壁」…なぜ佐々木尽はノーマンに5回失神KOで惨敗したのか…見破られていた弱点、当日の体重差5.6キロ、巧緻性の違い(RONSPO)

プロボクシングのWBO世界ウエルター級タイトルマッチが19日、大田区総合体育館で行われ、王者のブライアン・ノーマン・ジュニア(24、米国)が同級2位の佐々木尽(23、八王子中屋)を5回46秒KOで下して2度目の防衛に成功した。佐々木は1回に2度のダウンを奪われるも一発逆転を狙うファイトで会場を盛り上げた。だが、5回に飛びついての左フックで大の字にのされて失神KO。すぐに救急車で病院に緊急搬送された。意識は取り戻してCT検査で異常は見つからなかったが、試合の記憶が飛んでしまっている状態だという。 【映像】佐々木尽が“殺し屋”ノーマンの左フックに失神KO

 過去一人も日本人世界王者が誕生していないウエルター級の壁はあまりにも分厚かった。 「ササキコール」の中でゴングが鳴った5ラウンド。ノーマンは、左のボディストレートで誘いをかけ、佐々木がアクションを起こしたところへ飛びつくようにして戦慄の左フックを放った。佐々木はドタっと仰向けに倒れると大の字になって失神。動かなくなった。中屋廣隆トレーナーが、タオルをふってリングイン。レフェリーはKOを宣告した。  ノーマンは、特段喜ぶわけでもなく、KOが宣告される前にリングの四方に丁寧に、日本式のお辞儀をして、そして倒れている佐々木にむかって正座して頭を下げた。それが「大好きになった」という日本へのリスペクトを最後まで守り通した、誇り高き王者流の勝利の儀式だった。 「ワンダフルな勝利だ。セットアップで右を当てたところでフィーリングがよくて倒しにいった。佐々木は真のファイターだった」  敗者の勇気を称えるノーマンは「ASSASSIN(殺戮者)」と書かれたパーカーを着てインタビュー場に現れた。  36年ぶりにウエルター級の世界戦の国内開催を実現させたプロモーターの大橋秀行会長は「凄かったね。公開練習を見た時からこの王者が普通ではないことはわかっていたけど」と唖然とした。  中重量級の世界のボクシングのレベルを身をもって知る元WBA世界ミドル級スーパー王者の村田諒太氏は「レベルが違い過ぎた。ノーマンは今後、間違いなく統一王者、パウンド・フォー・パウンドになっていくボクサー」と目を丸くした。 「最後のダウンは僕が放送で『上に来ますよ』と言った数秒後のパンチ。その前にボディを2発打っていました。下を意識させて、効かせると、どうしても佐々木のように体を沈めてパンチを打ってくる。次に沈めた体を起こした瞬間、ノーマンは右肩を前に入れた姿勢からの左フックを放ちました。あれをやられるとパンチが見えないんです」  そうKOシーンを解説した。  大橋会長と並んで観戦していたスーパーバンタム級の4団体統一王者の井上尚弥は、自身のSNSにこう投稿した。  「ノーマンとの差はやる前からわかっていたものの佐々木尽ならと期待してしまう何かがあった。そんな僅かな期待すらも感じさせないノーマンとウェルター級の壁にショックを受けた夜でした」  この言葉がすべてを表している。  それほど衝撃的な失神KO決着だった。  佐々木は緊張していた。 「動物として100%勝てる。負ける気がしない」  計量後のフェイスオフでかけた自己暗示も解けてしまっていた。  その“力み”をノーマンは冷静に見ていた。開始わずか37秒。佐々木が不用意に放った右の打ち終わりにカウンターの左フックを浴びせた。佐々木はバランスを崩してダウンし、両手をついた。すぐさま立ち上がり、プレスを強めてきたノーマンに左右のフックを振り回して対抗したが、今度は、左フックの空振りに、左フックを合わせられた。38秒後に2度目のダウンである。場内は静まり返った。あまりの力の差にもう終わるのか…あきらめに似た空虚感である。  試合後ノーマンが佐々木の弱点を見つけていたことを明かしている。 「彼が嫌がることをやった。パンチが当たるなと思った瞬間があった。打った後に隙が出るんだ。そこをついた」  事前に映像をチェックする中で見つけていたカードの下がる弱点を対峙してわずか数秒の間に「ああこれか、実際にあるんだな」と確認してすぐさま実行に移す。ノーマンはただの世界王者ではなかった。しかし、佐々木もまたただの挑戦者ではなかった。

RONSPO
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