寝ている人の目を開けたままにして「睡眠中の瞳孔」を観察するちょっと怖い実験

Image: Neural Control of Movement Lab / ETH Zurich

このサムネイルは、イメージ画像でもカルトホラー映画のワンシーンでもなく、実際に行なわれた研究実験のものです。

寝ている被験者の目をテープで留めて観察

スイスの研究チームが、睡眠中の被験者の瞳孔を観察・分析。その結果、寝ているときの瞳孔の大きさは絶えず変化していることが判明しました。無意識のときでも脳はかなり活発に活動しているようです。

さて、どうやって睡眠中の眼球運動を観察したのか? その方法がちょっとびっくりで、被験者たちの片方の目をテープで開き、目やまぶたに軟膏を塗いて透明な包帯で閉じるというものでした。

こんなちょっと狂気じみたような実験で、研究チームは数時間にわたって寝ている人の瞳孔を観察したそうです。

チューリッヒ工科大学の生物医学エンジニアで、この方法を発明したManuel Carro Domínguez氏は、

我々の主な懸念は、被験者が目を開けたまま眠れないのではないかということでした。しかし、暗い部屋ではほとんどの被験者が目が開いていることを忘れて眠ることができたのです。

と、大学のリリースで述べています。研究者って、ちょっとイカれてるんですかね。

睡眠中の瞳孔の大きさは変化している

脳の活性化レベルを調節する神経核「青斑核」は、脳の奥深くにある脳幹に位置するため、研究するのが非常に難しいことで知られています。

一方、瞳孔の大きさは脳の活動を反映するため、研究者らは瞳孔の大きさの変化を観察することで、睡眠中の脳の活性化を追跡できると考えたのです。

研究によって、睡眠中でも絶えず瞳孔の大きさは変化していることがわかりました。しかし、青斑核が瞳孔の動きに直接影響を与えるかどうかは証明されていません。

この結果は、睡眠中の覚醒レベルは基本的に低いとされてきたこれまでの仮定と反するものになるようです。ただ今回の実験はテープで無理やり目をかっぴらくものですし、脳が何かに反応していると可能性もなくはない気も…。

ちなみに、この睡眠中に脳の活動レベルが絶えず変化しているという発見は、以前げっ歯類の研究で記録されていた生物学的特徴とも一致しているようです。

さらに研究チームは、睡眠中の瞳孔の動きと睡眠の安定性や記憶の定着に関わる脳波など、特定の脳活動パターンとの関連にも注目しています。音に対する脳の反応の強さは、被験者の瞳孔が示す脳の活性化レベルに依存することも発見しました。

不眠症やPTSDなどの疾患に

「私たちは、脳の活性化レベルと心臓の活動レベルに関連する瞳孔の変化を観察しているだけです」と説明するチューリッヒ工科大学の神経科学者、Caroline Lustenberger氏。

今後研究チームは、この潜在的な力学と脳の活性化レベルが睡眠にどう影響するかを追跡調査していくそう。強い因果関係が見つかれば、将来、瞳孔の動きを観察することで不眠症や心的外傷後ストレス障害PTSD)などの疾患、さらには昏睡患者の回復を検出できるようになるかもしれないと言います。

なおこの研究論文は、Nature Communications誌で公開されています。

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