衆院選2026 社会保障改革 「負担減」の先を語らねば

介護保険制度見直しの意見書を取りまとめた厚生労働省の審議会。サービス利用時の自己負担引き上げについては結論を先送りした=東京都港区で2025年12月25日、寺原多恵子撮影

 少子高齢化が加速し、社会保障制度の持続性が問われている。論戦を通じて、安心できる社会への道筋を示さなければならない。

 衆院選では各党とも、現役世代の社会保険料の負担が重いとして、引き下げを主張している。だが、医療や介護は保険料と税が財源となっており、それが細れば、サービス水準の低下や自己負担の増加につながる恐れがある。

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 診療や介護を受ける機会が多い高齢者だけでなく、現役世代も病気や事故の際に大きな影響を受ける。にもかかわらず各党とも、こうした懸念には言及していない。

 社会保障を巡る環境は厳しさを増している。2025年には団塊の世代がすべて後期高齢者となり、40年代には高齢者の人口が今より300万人増えてピークに達する。医療や介護の費用はさらに膨らみ続けるが、これを負担する現役世代は1000万人も減少する見通しだ。

40年代への備えが急務

 社会保障費の抑制が求められているのは確かだ。無駄を見直すなど効率化を図ることに加え、経済的に余裕のある人に応分の負担を求めることも必要となる。だが、実現は容易ではない。

 政府は昨年末、一定以上の収入のある人を対象に、介護サービス利用時の自己負担を引き上げようとしたが、結論を先送りした。医療費でも、高齢者の病院窓口での負担を増やす方針を決めており、医療と介護の「ダブルパンチ」になりかねないとの意見が強かったからだ。

 医療費の自己負担に月ごとの上限を設ける高額療養費制度についても、収入に応じて定められている負担額を引き上げる案を示した。しかし、がんなどで長期療養している患者らが「治療を続けられなくなる」などと反発し、練り直しを余儀なくされた。

 保険料の引き下げを進めるだけでは安全網を損ないかねない。負担とサービス水準のバランスを考慮した議論が欠かせない。

 そのための場として、高市早苗首相は年頭の記者会見で、超党派の国民会議を1月中に設置すると表明したが、衆院解散によって先送りされた。

 それどころか、与野党はこぞって消費税の減税を主張する。消費税は社会保障の財源である。制度の持続性を危うくする無責任な姿勢と言わざるを得ない。

(右から)民主・輿石東、自民・石原伸晃、公明・井上義久の3党幹事長(当時)が会談し、税と社会保障の一体改革関連法案の修正協議に入ることで合意。成立に向けて前進した=国会内で2012年6月7日、藤井太郎撮影

 そもそも、現在の消費税率は社会保障の財源確保のために決まった経緯がある。政府が12年に打ち出した「税と社会保障の一体改革」に基づき、5%から10%に段階的に引き上げられた。

 その際、社会保障のあり方を「全世代型」に転換し、高齢者のためだけに使われていた消費税の収入を現役世代向けの施策にも配分することを決めた。

 若い人たちの暮らしの基盤が弱体化していたためだ。バブル経済崩壊後、新卒採用が絞られ、非正規雇用が増えた。08年秋のリーマン・ショックで多くの人が仕事や住む場所を失った。

世代間対立招かぬよう

 しかし、十数年を経た今も、現役世代が恩恵を感じにくい状況が続いている。若い人のための施策が待機児童対策など子ども・子育て支援に限られているからだ。全世代型の理念は現役世代も含めて幅広く支える点にあったが、中途半端に終わっているのが実情だ。

 この理念を提唱した政府の有識者検討会で座長を務めた宮本太郎・中央大教授は「報告書に就労支援を盛り込もうとした」と振り返る。若い人を経済的に支える狙いだったが、雇用政策まで一体改革の対象に含めることには政府側の理解を得られなかったという。

 年金や医療などを中心とした社会保障の枠組みでは、現役世代が抱える課題には対応できない。物価高騰で実質賃金が下がり、暮らしを圧迫している。従来の考え方にとらわれず、仕事や住まいなどに関する施策にも目配りしなければ、若い世代の理解を得ることはできまい。

 そのための財源は、若者から高齢者までバランスよく担う必要がある。現役世代の負担軽減が高齢者の過大な負担の上に成り立つようであれば、世代間対立を強め、合意形成が難しくなる。

 何より重要なことは、「いざという時に支え合う」という社会保障の理念を社会全体で共有することである。各党には、そのための具体的な施策を提示することが求められる。

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