評価相次ぐ日米首脳会談も…「歴代最低」「かつてなくお粗末」元外務官僚の佐藤優氏、酷評

トランプ米大統領(左)を出迎え、握手を交わす高市早苗首相 =28日午前、東京・元赤坂の迎賓館(代表撮影)

作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は10月29日、国会内で講演し、高市早苗首相とトランプ米大統領との28日の首脳会談で共同文書が出なかったことなどを問題視し、酷評した。「歴代最低の日米首脳会談だろう。かつてなくお粗末だ」と述べ、「準備不足を認めず大成功とするプロパガンダはメッキがはがれる」と指摘した。「想像以上の成果」(官邸幹部)などと好意的に報じられていることに関し、「具体的に何が成果か分からない」と疑問視した。

元外交官で作家の佐藤優氏=令和4年2月14日(三尾郁恵撮影)

就任1週間で臨んだ高市首相に対し「十分な時間をかけることができなかった」と述べた上で「首相は悪くない。悪いのは振り付けした外務省だ。口先で『安倍外交の継承』といいながら、周回遅れの『価値観外交』に戻そうとしている」と強調した。

「共同声明ない日米首脳会談初めて」

自民党の鈴木宗男参院議員の勉強会で講演した。佐藤氏は外務官僚時代、旧ソ連崩壊の前後、モスクワの日本大使館に勤務。その後、本省で国際情報局主任分析官を務めた。外交や国際問題などで執筆、評論活動を続けている。

今回の会談を外務省が首相とトランプ氏との個人的な信頼関係構築に主眼を置いた点は「誰でも思いつく発想だ。この程度のことしか出てこないのか」と述べた。

会談では共同声明や共同記者会見がなかった。会見を見送った理由を外務省幹部は「日程的に窮屈だったため」とする。佐藤氏は「首相が立ち往生するのが目に見えているから出さなかった、と受け止められるのが普通だ」と語った。

共同声明に関しては「出なかった日米首脳会談は初めてと思う」と述べ、「成果が出たというなら、それを文書で国民に知らせないのは専制主義だ」と疑問視した。

両首脳は「合意の実施」を交わし、7月22日の日米関税合意などを挙げて「この偉大なディールを実施することへの強固なコミットメントを確認した」とする。

これに対し佐藤氏は「共同声明とはいえない。サブスタンス(内容)がスカスカ」と指摘し、「石破茂内閣でやったことだ。(首相は)石破氏がまとめたベースで『成功した』というべきではないか」と語った。

佐藤氏は1月23日、石破氏と東京都内で会食し、意見交換している。

「論理の崩れが気になる」

高市首相の発信のあり方も問題視した。会談で首相は「強い日本外交を取り戻す」と表明したが、佐藤氏は「裏返すと弱い外交だったということだ。でも、のっかっている成果は石破氏のやったことだ」などと述べ、「論理の崩れが気になる」との見方を示した。

首相がトランプ氏をたたえたタイとカンボジア停戦への貢献については「本来日本がやる仕事だ。日本がやっていないのに『良かった』というのは評論家みたいで無責任極まりない」と述べた。

タイは歴史的に親日国で、1933年に日本が国際連盟を脱退した契機となったリットン調査団報告案採択で、日本を除けば唯一の賛成票を投じず、棄権した経緯がある。カンボジアを巡っては90年代初頭、戦後初めて本格的な海外紛争に関与する形で、内戦終結を主導した。

高市首相は「勉強家」も…

佐藤氏は高市首相について「ものすごい勉強家だ。『ガラスの天井』を最初に破ったのもすごい。歴史に残る」と評した上で、「事実に基づいた外交を行っていくのか。それともレトリック(修辞)に基づいて行うのか。専門家の冷静な見解をみてやっていくのか。SNSの反応をみてやっていくのか」と述べ、「少なくとも現時点で(従来の首脳外交の)一線を越えている」と苦言を呈した。(奥原慎平)

<日米首脳会談冒頭発言全文>両首脳が安倍氏に計6回言及

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