ソフトバンク、売上・利益とも過去最高 モバイル安定成長で法人・AI分野も加速
ソフトバンクは5日、2026年3月期第2四半期の決算説明会を開催し、宮川潤一代表取締役社長執行役員兼CEOが連結決算および事業概要について説明した。
2026年3月期上期の連結決算は、売上高・営業利益・純利益のすべてで過去最高を更新し、順調に推移した。売上高は前年同期比8%増の3兆4008億円で、通期では7兆円の到達が視野に入る。
上期は全セグメントで増収となり、とくにディストリビューション事業とファイナンス事業が好調だった。営業利益は7%増の6289億円で、通期目標1兆円に対する進捗率は63%。純利益は8%増の3488億円で、進捗率は65%と堅調だった。
同社はこれまで、DXやフィンテック、AIといった非通信分野の拡大に注力してきた。その結果、売上高に占める非通信分野の割合は、宮川氏の社長就任から5年間で47%から63%へと拡大。上期だけで非通信事業の売上総額が約1兆円増加し、事業の多角化が着実に進展している。
事業別では、コンシューマ事業の売上高が3%増の1兆4757億円となり、モバイル売上も約100億円増加した。営業利益は3%増の3309億円。スマートフォン契約数も全ブランド合計で3%増の3206万件と堅調に推移した。今後は短期契約中心の獲得モデルを見直し、ブロードバンドや電力、クレジットカードなどとのセット利用を通じて長期契約者の拡大を図る方針を示した。
エンタープライズ事業は売上高が8%増の4820億円、営業利益は10%増の1041億円で、上期として初めて1000億円を突破し過去最高を更新。ディストリビューション事業も売上高が17%増の5058億円、営業利益が36%増の220億円と大きく伸びた。
AI関連商材(AIサーバーやAI搭載IoT機器)の需要拡大に加え、従来の売り切り型からサブスクリプション型への転換によって継続収入が増加したことが成長を支えたという。ディストリビューション事業は今期中に売上高1兆円を突破する見込みで、エンタープライズ事業との法人向け売上合計は2兆円に達する勢い。同社は次期中期経営計画において、法人事業をコンシューマ事業に並ぶ規模まで拡大させる方針を掲げている。
メディア・EC事業も売上高8228億円(4%増)、営業利益1675億円(13%増)と好調で、売上高は過去最高となる見通し。ファイナンス事業は売上高が24%増の1897億円、営業利益は倍増の385億円を記録した。PayPayの流通取引総額(GMV)は9.2兆円で25%増、EBITDAも倍増の483億円と引き続き高成長を維持している。
次世代社会インフラの取り組みでは、AI・クラウド分野での進展が目立った。クラウドソリューションでは、オラクルとの協業によるソブリンクラウドを2026年4月から提供予定。国産LLM「Sarashina mini」は11月28日から法人向けAPI提供を開始する。自社構築のAI計算基盤も10月から外販を開始し、AIスタートアップ企業向けにGPU基盤を無償で提供する支援プログラムを立ち上げた。このプログラムは、モデル構築・検証から実証実験、商用化支援まで、事業フェーズに応じて3段階のプランで構成される。
さらに、OpenAIとの独占的パートナーシップを担う新会社「SB OAI Japan」の設立を発表。ソフトバンクグループとの共同持株会社を通じて、OpenAIと50対50で出資する体制を構築する。サービス提供は来年を予定しており、開発は順調に進んでいるという。これらのAI関連の取り組みを、同社は次期中期経営計画における成長の柱と位置づけている。
――モバイル事業について、第2四半期の感触を教えてほしい。他社が厳しい競争環境にあると述べる中、御社の売上は順調に見えるが、現状の分析は。
宮川社長 モバイル事業については、MNP(番号ポータビリティ)でのキャリア間の移動については順調でした。ただ、見込みよりも短期契約者が多く、獲得効率の観点から非効率であったため、反省点として認識しています。全体的には順調に推移しました。
コンシューマ事業は、ARPU(顧客一人当たりの平均売上)が上がらない限り、大きな顧客の流動はもう起こらない時代です。年間100万純増とARPUの増加分を合わせて、微増は何とか確保したいと考えています。
――モバイル事業で上期好調だった要因を、ソフトバンクとして特に良かった点として教えてほしい。9月末にワイモバイルが値上げをしたが、足元のユーザーの反応と、下期への反映について現状認識を教えてほしい。
宮川社長 モバイル事業が好調だったというよりは、他の部門が2桁成長を達成する中、モバイルは計画通りに進み、純増もある程度の数を確保し、売上全体も大きくなったという認識です。
ワイモバイルの9月からの値上げについては、「上手にやったな」と正直思っています。ユーザーも受け入れてくださっており、トレンドに大きな変化はなく、予定通りであります。
――モバイルのARPUが若干横ばいになっているように見えるが、今後上昇基調を継続させるための施策を教えてほしい。
宮川社長 ARPUについては、コンシューマは順調に伸びていますが、法人がマイナスで、トータルでマイナスになっているのが実態です。法人分野では競争が激しいため、ソリューションとの組み合わせで提供しており、トータルでプラスであれば戦略として間違っていないと考えています。
――長期の優良顧客に注力する方針の意図を改めて教えてほしい。
宮川社長 長期顧客への注力の根底には、解約率の悪いところを直したいという目的があります。短期で解約してしまうお客さまに獲得インセンティブをかけていくのは非効率です。ブロードバンドや電気、カードとのセット利用、あるいはPayPayとの連携を楽しむお客さまこそが、解約率とARPUの面で優良顧客であるため、これらの「ファンユーザー」を伸ばすところに注力したいと考えており、純増数にこだわらない方針を社内で共有しました。
――ネットワークについて、RedCap導入やVoNRの開始など、新しい技術を導入する際の戦略を教えてほしい。
宮川社長 新しい技術は全て「商品の種」になると考えており、積極的投資の分野です。日本という構造の中では、攻め続けるしかないだろうと。技術的には手を緩めずに攻め続けたいと考えています。
――モバイル競争について、今後は獲得競争ではなく、質や効率化、リテンションを重視していく方針のようだが、いわゆるキャリア間の「不毛な争い」は控えていくというスタンスなのか。
宮川社長 おそらく「攻められた」とおっしゃっているキャリアさんは、その原因がソフトバンクにあると考えているのでしょう。我々も逆の意見を言う現場もありますが、冷静に考えれば、攻めている姿勢を見せているソフトバンクが攻めているのでしょう。
我々がブレーキを踏めば全体が止まる構造であれば喜んで踏みますが、歴史上そうではなかったため、ある程度の競争はあると思います。しかし、獲得数にこだわっても業績がほとんど変わらない環境では時間の無駄です。
AIにもっと舵を切り、サービスを組み合わせてくれるファンユーザーにこそお金をかけるべきだと考えています。現場もこれを理解しており、今後、一時的に数が減ったくらいでは慌てない体制を作りたいと思っています。
――「クリスタル・インテリジェンス (Crystal intelligence、綴りが変更された)」について、ソフトバンク社内での利用目標と実施内容、2026年に予定されている他社への提供時期、目標、ITベンダーによる先行サービスとの差別化について教えてほしい。
宮川社長 「クリスタル・インテリジェンス」は、2026年のサービス開始を目指し、開発を進めています。2025年の春先にOpenAIが我々向けに開発したアルファー版を受け取り、社内検証を始めたところです。我々の技術者によると、「これはもう異次元だ」という評価で、これまでのChatGPTやエンタープライズの「世界観で語れるものではない」とのことです。このプロダクトが完成すると、企業の仕事のあり方やプロダクトのスピード感がガラッと変わると思います。
ソフトバンク社内では、このプロダクトに順応できるようシステムの口の整理や、商用サーバーにダイレクト接続しないための接続環境の作成など、インフラ整備を急いでいます。まずはソフトバンクをテストベッドとして徹底的に検証し、自信がついてから世の中の大手企業へ販売しに行く考えです。
他社製品との差別化については、「そもそも商品自身が、プロダクト自身の考え方が違う」という点です。将来的に競合製品が出てきた場合は、コスト面や機能面で勝負していくことになります。
具体的な他社提供の目標については、「やってみないと分からない」というのが正直なところです。導入の初期フェーズでは、企業のデータ整理など相当な労力がかかるため、最初から何十社、何百社を相手にできるとは考えておらず、慎重に一社一社積み上げていくフェーズになると想定しています。
――「ChatGPTの世界観で語れるものではない」とのことだが、具体的な機能の例があれば教えてほしい。
宮川社長 「クリスタル・インテリジェンス」の具体的な機能については、OpenAI側との契約により、詳細な内容を細かくお話しすることはできません。
ただし、イメージとしてお伝えすると、まず入力は手入力ではなく、語りかけるレベルで綺麗に入る点です。また、企業用であるため、業務を立て付ける際のワークフローを自動で生成し始める機能を持っています。従来のQ&Aに近いキャッチボール型の機能を超越した能力を持っているということです。
――「PayPay」の上場について、米国政府の審査が止まっている状態についてコメントをいただきたい。
宮川社長 昨日のLINEヤフーの通りですが、現在、米国政府が一時停止している状態で、SEC(米国証券取引委員会)の審査が止まっているのは事実です。これが再開しない限り、コメントのしようがない状況です。
――宮川社長個人として、企業価値の希望があれば教えてほしい。
宮川社長 PayPayの企業価値について、具体的な金額は言えませんが、「もうちょっと僕は期待したいな」と思っています。現在の成長スピードが落ちるとは思っておらず、むしろ「まだ上場するのは早いんじゃないか」と思っていたほどです。PayPayの成長力、収益化、そしてカントリーリスクが低い日本という環境での将来性の高さを評価しており、非常に評価される企業であって良いのではないかと期待しています。