【コラム】米利下げは得策でない可能性も、慎重な対応を-ダドリー
米連邦公開市場委員会(FOMC)は今後も利下げを続けるべきなのか。市場の見方は明確だ。先物価格動向は、現在4%をわずかに超えるフェデラルファンド(FF)金利が2026年末までに3%程度まで引き下げられると示唆している。だが、それが得策だと筆者は確信していない。
利下げの根拠は大きく3つに分けられる。
1)リスク管理
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、雇用の伸びが急減速し、関税の価格への影響は一時的にとどまる可能性が高いため、インフレの上振れリスクはもはや、労働市場の下振れリスクを上回らないと説明している。この見方は「やや景気抑制的」な金融政策を前提としており、より中立的なスタンスへ移行すべきだとするものだ。これは、先月のFOMC会合で政策当局者が成長率とインフレ率の予測中央値を引き上げたにもかかわらず、ほぼ全会一致で利下げを決定したことにも反映されている。
しかし、筆者はこの見解には納得していない。インフレが依然として、大きなリスクとなる恐れがあるからだ。インフレ率は過去4年半以上にわたり目標の2%を超過している。関税の価格への転嫁は、予想より遅く、影響も限定的だが、それでも依然として続いている。現在の金融政策は実際のところ、それほど景気抑制的ではないのかもしれない。最近の経済指標は需要の底堅さを示しており、アトランタ連銀の「GDPナウ」モデルは第3四半期の成長率を年率換算で3.8%と予測している。
2)先手を打つ必要性
ボウマン副議長は最近の講演で、労働市場の悪化がデータで確認されるまでFRBが待てば、対応が手遅れになる恐れがあると警告した。このため、FRBは先手を打つ必要があると主張している。
筆者は、政策は予防的であるべきだという点には同意する。ただし、予測に対して十分な確信がある場合に限る。現時点では経済の先行きは極めて不確実で、インフレの定着およびインフレ期待が不安定化するリスクと、労働市場が大幅に悪化するリスクのどちらをより懸念すべきか判断がつかない。したがって、先手が重大な誤りとなる深刻なリスクがある。
3)引き締められた金融政策
マイラン理事が唱える論理によれば、中立金利が大きく低下してしまったため、金融政策はFRBが考える以上に大幅に引き締められている。マイラン氏が根拠として挙げるのは、人口の伸び鈍化による設備・住宅需要の減退、関税収入による政府借り入れの減少、減税による貯蓄の増加などだ。
人口増加のペース減速については納得できるが、それ以外の主張は一面的な見方に過ぎない。たとえば、減税により資本の実質コストが下がるのであれば、貯蓄よりも投資需要が増し、中立金利はむしろ上昇するのではないか。トランプ政権の通商政策によりドル建て債の需要が減っている中で、「一つの大きくて美しい法案」が生む財政赤字の拡大は、政府の借り入れ増を必要とするのではないか。仮にマイラン氏の言う通り中立金利が実質ゼロであれば、現在の高金利は経済を圧迫しているはずだが、現実にはその兆候は見られない。
結論として、FRBが懸念を抱く理由は十分にあるが、直ちに行動すべきとは言えない。
労働市場は確かに懸念材料だ。「サーム・ルール」で定義されるように、50ベーシスポイントの失業率上昇という節目を超えると、その弱さは悪循環に陥りやすく、本格的なリセッション(景気後退)を招きやすい。昨年はこの節目を超えたが、大事には至らなかった。おそらく、それは失業率の上昇が雇用減ではなく、労働力人口の急増によるものだったからだ。しかし今回は、移民取り締まりの強化により労働力の増加が急減しており、労働者需要の弱さが主因となるだろう。
一方で、インフレ率がFRBの目標である2%を1ポイント余り上回り続けるようであれば、物価安定への期待が揺らぐ可能性がある。その場合、物価を抑制するための「代償」、つまり2%のインフレ目標を達成するために必要な失業率の上昇幅は著しく増大する。1970年代には、この代償が2度にわたる連続した景気後退と急激な失業率の上昇という形で現れた。
今月の政策決定会合で当局者は追加利下げに踏み切ると筆者は予想している。前回の会合から見通しを大きく変える要因は乏しく、特に政府機関の閉鎖によって評価可能な新規データがほとんどない可能性が高いためだ。だが、これは正しい方針とは思えず、長期的な金融緩和サイクルの前兆であってはならない。経済の見通しがより明確になるまでは、慎重な姿勢を支持したい。
(ウィリアム・ダドリー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)
原題:Maybe the Fed Shouldn’t Be Cutting Interest Rates: Bill Dudley
(抜粋)