パナソニック子会社「定年後パートで年収85%減」は違法か? 勤続40年の従業員が提訴「理不尽な扱いを受けたのは私だけではない」

パナソニックホールディングスの傘下「パナソニックコネクト」(東京都中央区)の労働者が、定年後の継続雇用で年収ベース85%減となるパートタイム勤務しか提示されなかったのは「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)」に反するとして、10月14日、東京地裁に提訴した。

原告は、第一の請求(主位的請求)として、フルタイム勤務の労働者としての地位の確認および賃金の支払いを求め、これが認められない場合の請求(予備的請求)として、不法行為に基づく損害賠償の支払いを求めている。

定年後もフルタイム勤務を希望するも不採用…

訴状等によれば、原告のAさんは、新卒で松下電送株式会社(当時)に入社。今年5月に定年を迎えた。

Aさんは2023年度から、定年後もフルタイムで働けるよう上司らに要望していた。しかし、上司らからは「組織のコストを下げないといけない状況」「フルタイムでの再雇用契約はできない」「再雇用を希望するなら自身で人脈を使い頭を下げて社内就活を行うべき」などと説明を受けた。

その後、2024年10月にAさんがフルタイムの再雇用求人に応募したが、不採用となった。

高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)9条では、定年の定めをしている事業者に対し「雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため」、①定年の引き上げ、②継続雇用制度、③定年の定めの廃止――のいずれかを講じるよう義務付けており、パナソニックコネクトでは、このうち②継続雇用制度を導入している。

これに伴い同年11月、同社はAさんに対し、継続雇用の労働条件として、給与85%減額(年収ベース)となる週2日のパートタイム勤務を提示。Aさんは失職を避けるためこれに応じることを余儀なくされた。

同社の対応についてAさんの代理人である今泉義竜弁護士は訴状で、「(Aさんのように)継続雇用の労働条件が、定年退職前の労働条件との継続性・連続性に欠ける内容であって、そのことを正当化する合理的な理由が存しない場合には、継続雇用制度の導入の趣旨に違反するものとして違法・無効になる」と指摘。

過去の裁判例でも、同様の扱いが違法と判断されたケースがあるとして「九州総菜事件」を示した。

●九州総菜事件(福岡高裁平成29(2017)年9月7日) 定年後、フルタイムでの再雇用を希望していた労働者に対し、賃金が定年前の約25%となるパートタイマー契約を会社が提案したことについて、裁判所が「定年退職前の労働条件との継続性・連続性を一定程度確保するものとは到底いえない」と判断した例。

同じ再雇用でもフルタイムは「社宅あり」Aさんは退職扱い?

また、Aさんはパート勤務になったことで、社宅利用ができなくなったことに対しても損害賠償を求めている。

この社宅はフルタイムの再雇用契約であれば、2027年2月まで利用可能だった。しかし、同社は「パートタイムの再雇用契約は、社宅規程の『退職したとき』という退去事由に該当する」として、Aさんに対し2025年6月以降の社宅利用を認めなかった。

これに対し、今泉弁護士は訴状で、パート有期法は無期雇用労働者と短時間・有期雇用労働者の待遇に不合理と認められる相違を設けてはならないとしており、これは「定年後再雇用労働者においても適用される(※)」として、「継続雇用制度により雇用関係が継続するにもかかわらず社宅の退去を強いるのは極めて不合理。(社宅規程の)『退職したとき』とは、会社との雇用関係が完全に終了した場合と解釈すべき」と述べた。

※平成31年1月31日基発0130第1号ほか「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について」第3・8ほか参照

Aさん「理不尽な扱いを受けたのは私だけではない」

提訴後に会見に臨んだAさんは、はっきりした口調で次のように述べた。

「定年後も、会社や後輩社員の成長を支える力になりたいと願っていました。しかし継続雇用について、短期間しかかかわりのなかった上司から『定年を迎え“自然減”となるあなたをなぜ再雇用しなければならないのか』と告げられたときの深い失望と無念は今も私の中で消えることはありません。

定年後の再雇用において理不尽な扱いを受けたのは私だけではありません。長年現場を支えてきた先輩方のくやしさとあきらめの言葉を何度も耳にしてきました。会社が掲げる「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」いわゆるDEIの理念と、現場の実態との間にある深い溝を見過ごしてはならない、そう強く思っています。

今回の提訴は覚悟をもって選んだ道です。この提訴が一石を投じるきっかけとなり、より公正で、誰もが年を重ねても安心して働き続けられる社会に近づくことを願っています」

「定年後の継続勤務を断念させる」作戦?

また、会見に同席した今泉弁護士は、パートタイムとして働くAさんが、現在、本人の能力や経験とかけ離れた「過小な業務」に従事させられているとも指摘。

そのうえで、「被告(パナソニックコネクト)は、あえて過小な業務を作出して、到底受け入れがたいパートタイムの労働条件を作成し、定年後の継続勤務を断念させることをしていると推察できる。高年法の趣旨に反する運用で、是正されなければならない」と訴えた。

パナソニックコネクトは本件について、弁護士JPニュース編集部の取材に対し「現時点では訴状が届いておらず、コメントは控えさせていただきます」(担当者)と述べた。

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