課長絶句・・・「雑用はやりません」「庶務の人に任せるべきです」 忘年会幹事を断った《1年目の新入社員》のまさかの“言い分”

 「まさか断られるなんて……」  ある商社の課長は、思わず絶句した。忘年会シーズンが近づき、年に1回の部内懇親会の準備を進めようとしたときのことだ。4月に入社した新人のKくんに幹事を頼んだところ、予想外の返答が返ってきた。  「申し訳ありませんが、そういう雑用はお断りしたいです。私は成長意欲が高いので、もっと会社に貢献できる仕事をさせてください。幹事なら庶務の方に任せるべきだと思います」  課長は言葉を失った。自分が若手だったころ、幹事は新人の役割だと思っていた。それどころか、先輩たちに喜んでもらえるよう工夫を凝らし、評価されるチャンスだとも考えていた。だが、Kくんにとって幹事は「雑用」でしかないのだ。

 このような若者の価値観をどう受け止めたらいいのか。上司として、どう答えるべきなのか。  そこで今回は、幹事を「雑用」と決めつける若者の視野の狭さを指摘しつつ、幹事こそが「ダンドリ力」を鍛える絶好の機会であることを解説する。部下の育成に悩む上司は、ぜひ最後まで読んでもらいたい。 ■新入社員が幹事を嫌がる3つの理由  なぜ最近の若者は幹事を引き受けたがらないのか。筆者の私見だが、その理由は大きく3つあると考えている。

(1)成長に直結しない (2)タイパが悪い (3)評価されない  Kくんのように「成長意欲が高い」若者ほど、幹事のような仕事を軽視する傾向がある。彼らにとっての成長とは、専門スキルの習得や実績を上げることだ。営業成績を伸ばしたり、プログラミング技術を磨いたり、資格を取得することが成長だと信じている。  だから幹事のような「調整業務」は成長に寄与しないと思い込んでいる。しかし本当にそうだろうか。この点については後ほど詳しく解説したい。

 次にタイパだ。タイパ(タイムパフォーマンス)を重視する若者にとって、幹事は時間対効果が悪く見える。店を探し、日程を調整し、予算を考え、当日の段取りまで気を配る。これらの作業に費やす時間を、もっと「生産的な仕事」に使いたいと考えるのだ。  また、幹事をうまくこなしても評価につながらないと考えてはいないか。営業で契約を取れば評価される。企画が通れば評価される。しかし幹事がうまくいっても「当たり前」と思われるだけだ。失敗すれば批判されるが、成功しても褒められない。リスクばかり高く、リターンが少ないと感じる。


Page 2

 これらの理由から、幹事を敬遠するのではないか。それが私の意見だ。しかし、この考え方には大きな見落としがある。 ■「雑用」と決めつける若者の視野の狭さ  「幹事なんて雑用でしょ?」  こう言い切る若者に対し、上司はどう答えるべきか。私なら、こう伝える。  「君が雑用だと思っているその仕事こそ、『ダンドリ力』を鍛える絶好の機会だ」  ダンドリ力とは何か。それは作業が効率的に進むように準備・調整する力のこと。単なる準備ではない。リソース配分などの手配、調整がとても大事なスキルだ。

 多くの若者は、目の前の仕事をこなすことに精いっぱいだ。しかし、いずれリーダーやマネジャーになれば、複数のプロジェクトを同時に進めなければならない。メンバーをアサインし、スケジュールを管理し、各所と調整しながら成果を出す。そのときに必要なのが、まさに「ダンドリ力」なのである。  幹事を引き受けることで、このダンドリ力を実践的に学べる。たかが幹事、されど幹事だ。幹事業務には、マネジメントに必要なエッセンスがすべて詰まっている。

ダンドリ力を高める3つのポイント  それでは、ダンドリ力とは具体的にどのような力なのか。次の3つのポイントを押さえておこう。 (1)優先順位 (2)手順(プロセス) (3)各種調整(予約)  まず、(1)優先順位だが、これは状況によって変更できるものだ。たとえば忘年会の幹事なら、どの店にするか、どんな料理を選ぶか、二次会をどうするか。これらは状況に応じて柔軟に変えられる。  一方、(2)手順(プロセス)は、基本的に変更してはならない。幹事なら次のような手順が考えられる。

・日程を決める ↓ ・予算を決める ↓ ・上司に意見を聞く ↓ ・店を決める ↓ ・予約する ↓ ・参加メンバーを募る ↓ ・当日の席順を考える  この手順を間違えると、大失敗する。たとえば店を予約してから上司に相談したらどうなるか。  「その店は先月も使っただろ。違う店にしてくれ」  と言われて、やり直しになるのだ。手順を守らないと、二度手間、三度手間になり、タイパが極めて悪くなる。 ■幹事業務はプロジェクトマネジメントの縮図


Page 3

 そして、(3)各種調整が最も難しい。とくに「人×時間」のリソース調整は、デリケートな配慮が求められる。  「この日程だと部長が出張で参加できない」  「この時間帯だと、小さい子どもがいる社員が参加しづらい」  このような配慮ができるかどうかで、幹事の評価は大きく変わる。ダンドリ力がある人は、手強い人を味方につけている。  「部長に事前に相談しておいたら、『その日なら参加できる』と言ってもらえました」  「女性社員の希望を聞いて、お店を3つピックアップしました」

 このように動ける人は、将来マネジャーになっても活躍できる。なぜなら、プロジェクト運営も同じ原理だからだ。  幹事業務を分解すると、実は立派なプロジェクトマネジメントであることがわかる。プロジェクトとは、複数のタスクの集合体だ。幹事業務も次のように分解できる。 ・大プロジェクト(忘年会を成功させる) ・中プロジェクト(メンバーを集める/会場を決める/予算を管理する/当日の運営をする) ・小プロジェクト(日程調整をする/店を予約する/座席を決める/会費を集める)

 このように分解すれば、「やるべきこと」が明確になる。そして各タスクの処理時間を見積もることも重要だ。  「店探しに2時間」  「日程調整に1時間」  「予算確認に30分」  このように処理時間を概算できれば、優先順位付けも簡単になる。時間がかかるタスクから早めに着手すればいいのだ。  さらに、リソースの調整も学べる。リソースとは次の5つだ。 ・人 ・物 ・金 ・情報 ・時間  幹事をやれば、これらすべてのリソースをどう配分するかを考えなければならない。予算(金)をどう使うか。誰(人)に協力してもらうか。どんな情報を事前に集めるか。いつまでに(時間)何を終わらせるか。

 これらを実践的に学べる機会が、幹事なのである。 ■上司は新入社員にこう伝えるべき  それでは、冒頭の課長はKくんにどう答えるべきだったのか。私なら次のように伝える。  「確かに君が言うように、幹事は営業成績に直結しないかもしれない。しかし、将来マネジャーになったとき、君は複数のプロジェクトを同時に回さなければならなくなる。そのときに必要なのが『ダンドリ力』だ。優先順位を決め、手順を守り、リソースを調整する。これらのスキルを、幹事を通じて実践的に学べるんだ」


Page 4

 幹事を『雑用』だと思っている限り、視野は狭いまま。周りを巻き込んで成果を出すには、ダンドリ力が欠かせない、と言ってもいいだろう、  ダンドリ力は、業種や職種を問わず使える「ポータブルスキル」だ。営業でも、企画でも、製造でも、エンジニアでも必要になる。転職しても、独立しても使える。一生モノのスキルなのである。  だからこそ、若いうちから意識的に鍛えておくべきだ。幹事はそのための絶好の機会である。先輩コンサルタントから「若いときから積極的に幹事を引き受けろ」と言われたのも、このためだ。

 もちろん、最初からうまくできる必要はない。失敗してもいい。大事なのは、ダンドリを意識しながら取り組むことだ。そうすれば、確実に力がつく。  忘年会シーズンが近づいている。新入社員に幹事を任せるチャンスだ。もし「雑用だから嫌です」と言われたら、この記事の内容を伝えてほしい。幹事こそが、将来のマネジャー候補を育てる最良の機会なのだから。

横山 信弘 :アタックス・セールス・アソシエイツ 代表取締役社長

東洋経済オンライン
*******
****************************************************************************
*******
****************************************************************************

関連記事: