【解説】参院選で極右政党が台頭、「日本人ファースト」で議席拡大
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シャイマ・ハリル東京特派員、ケリー・アン記者(BBCニュース)
日本の野党「参政党」はこの3年間、参議院(定数248)でわずか1議席しか保持しておらず、傍流と見なされていた。
しかし、20日に投開票が行われた参議院選挙で、同党は14議席を獲得し、最大の勝者の一つとして浮上した。
参政党は2020年、新型コロナウイルスのパンデミック下で結成された政党だ。ワクチンに関する陰謀論を拡散するユーチューブ動画を通じて注目を集めた。
最近では、「日本人ファースト」を掲げるナショナリズム的な政策で支持基盤を拡大。外国人による「静かな侵略」に警鐘を鳴らしている。
参政党の支持拡大は、移民やオーバーツーリズムに対する国民の不安の高まりを反映している。日本政府も選挙直前に外国人との秩序ある共生社会推進室を新設するなど、こうした課題への対応を模索していた。
だがこれは、日本の恒常的な右傾化を示すものなのだろうか?
参政党は2020年初頭に発足し、反ワクチンや反マスクを主張する一連のユーチューブ動画を通じて、保守層の間で注目を集めた。
参政党は2022年の参議院選挙で初議席を獲得した。この選挙では、選挙活動では自らを「反グローバリスト」の政党と位置づけていた。集会に参加した支持者らは、グローバリストや金融機関が影で手を組み、無力な市民を支配するため陰謀を重ねる世界について語っていた。
今回の選挙活動では、消費税の減税や児童手当の増額といったポピュリズム的な公約を掲げた。だが最も注目を集めたのは、「行き過ぎた外国人受け入れに反対」を選挙公約に掲げた、移民に反対するナショナリズム的な「日本人ファースト」の政策だった。同党の神谷宗幣党首は選挙前にロイター通信に対して、自分はドナルド・トランプ米大統領の「大胆な政治スタイル」に影響を受けたと語っている。
参政党の公約はインターネット上で保守的な若者の支持を集め、与党・自由民主党の保守層の支持基盤を侵食した。
20日の投開票の結果は、日本が経済の逆風や生活費の高騰、アメリカとの関税交渉に苦戦する中で、自民党総裁である石破茂首相への有権者の不満を浮き彫りにした形だ。
神田外語大学で日本研究を担当する講師、ジェフリー・ホール氏は自民党よりさらに右寄りの政党への支持が高まることで、自民党の支持基盤が崩れたと話した。
「安倍晋三元首相の支持者たちにとって、石破首相は保守ぶりが足りない」のだと、ホール氏は言う。「石破氏はナショナリストな歴史観を抱いていない、安倍氏に比べて中国に対して強硬姿勢ではないと、安倍氏の支持者たちからは思われている」。
コンサルティング会社「アジア・グループ」のアソシエイト、西村凛太郎氏は、有権者が参政党や他の野党に投票することで、「自民党がかつて掲げていた保守的理念から逸脱したことへの代償を払わせようとしている」と指摘した。その一例として西村氏は、岸田政権下で成立したLGBTQ理解増進法を挙げた。
「今回の選挙での(野党の)成功は、有権者が現状維持の体制政治にうんざりしていることを示している」と、西村氏は話す。
この傾向は、他の小規模野党にも表れている。中道右派の国民民主党は、今回の選挙で17議席を獲得し、前回の5議席から大きく躍進した。
一方で参政党は、今回の選挙で議席を伸ばしたものの、参議院で予算案を提出するために必要な最低議席数には届いていない。さらに、より権限の強い衆議院では、同党はわずか3議席しか得ていない。
47歳の神谷氏はかつて、長期政権を担う自民党に所属していた。2012年の衆議院選挙では、当時の自民党総裁だった安倍晋三氏(故人)が神谷氏の応援に駆けつけたが、最終的に落選した。
神谷氏は2020年3月に参政党を立ち上げ、2022年の参議院選挙で同党から唯一の当選を果たした。
元自衛隊予備自衛官でもある同氏は、自分の政治手法はトランプ氏に影響を受けていると公言し、政財界のエリート層を強く批判してきた。
前出の西村氏によると、神谷氏は選挙活動で「しばしば扇動的かつ物議を醸す発言」をして注目を集めたという。
西村氏は、「神谷氏の発言は、非常に組織的なキャンペーンのもとでソーシャルメディア上に拡散された」と指摘した。
神谷氏は最近、鹿児島での街頭演説で、グローバリズムでは外国企業が自らの目的のために国のルールを変えていると主張。「ずっと外圧に負けて言うこと聞くだけになる」と訴えた。
別の街頭演説では、男女共同参画について「今まで間違えたんですよ、男女共同参画とか」、「子どもを産んだほうが安心して暮らせる社会状況を作らないといけないのに、働け働けとやりすぎちゃった」などと発言したことが、批判された。
ロイター通信によると、党の支持層について問われた際には、自分が熱血だから男性に響くのかもしれないと語った。
ただし、西村氏によると、出口調査の結果、参政党の支持は必ずしも若年層の男性に限られておらず、20代から50代の労働世代全体から、一貫した支持を得ていたという。
男性有権者への偏りはやや見られたものの、「著しく偏っていたわけではない」とも、西村氏は話した。
投票後の20日夜に報道各社のインタビューに応じた神谷氏は、今後の選挙で「50、60ぐらいの議席」を確保することで、「政策がより実現可能性を増す」だろうと語った。
投票後の日本テレビのインタビューで「日本人ファースト」の主張に対する周囲の反応を質問されると、「これが外国人差別なんだと言われる。そういう言い方は一切してないんですけど、たたくためにレッテルを貼られたなという感覚は持っています」と答えた。
2024年末時点で、日本に住む外国人の数は過去最多の約380万人に達した。入国管理当局によると、これは前年比で10.5%の増加だが、依然として日本の総人口の約3%にとどまっている。
また、日本政府観光局によると、昨年の訪日外国人観光客数も、過去最多の約3690万人を記録した。
参政党は移民に対する不安の高まりを利用し、与党・自民党が外国人の受け入れを進めた政策を非難している。
神田外語大学のホール氏は、経済が弱体化する国では、反移民的な言説がしばしば表面化すると指摘している。
「一部の観光客による迷惑行為やマナー違反」が火に油を注ぎ、「外国人問題の深刻化」という印象を生んでいると、ホール氏は語った。
「(参政党は)移民に対する不満や、移民の数が増えすぎているという、根拠の乏しいかもしれない感情を巧みに利用した」
日本では伝統的に、移民受け入れに慎重な姿勢が続いてきた。しかし、少子高齢化が進む中で、政府は近年、労働力確保を目的に入管制度の緩和を進めてきた。
一方で、外国人の流入に不満を抱く一部の日本人からは、犯罪の増加や物価上昇などの原因として、外国人を非難する声が上がっている。
選挙のわずか1週間前の15日、政府は国民の不安を和らげることを目的に、内閣官房に新しい事務局を設置し、「外国人との秩序ある共生社会の実現」を目指すと表明した。
しかし、この対応は時すでに遅しだった。そして参政党の台頭は、日本の政治情勢における転換点となる可能性があるとみられている。
「これまで長年、日本には右派ポピュリスト政党、あるいは極右ポピュリスト政党は存在しないと言われてきた」と、ホール氏は語った。「だが(今回の結果は)、日本でもその可能性があることを証明した。しかも、それは今後も続く可能性が高い」。
一方で、アジア・グループの西村氏は、日本の有権者は「気まぐれ」なため、ポピュリズム政党が日本の政治に定着するのはこれまで「極めて難しかった」と指摘している。
「支持した政党が自分たちの期待に見合わないと思えば、有権者は既存の選択肢に戻るか、新しい代替勢力に乗り換えるだろう」と、西村氏は述べた。