「気が狂いそうだ」金正恩の”肝いりプロジェクト”に地元民の怒り噴出(デイリーNKジャパン)|dメニューニュース

「気が狂いそうだ」金正恩の”肝いりプロジェクト”に地元民の怒り噴出

北朝鮮は現在、金正恩総書記の指示に基づき、平安北道(ピョンアンブクト)新義州(シニジュ)市の下端里(ハダンリ)と隣接する義州(ウィジュ)郡の西湖里(ソホリ)一帯で、450ヘクタール規模の北朝鮮最大級の温室農場と野菜科学研究センターの建設を進めている。いずれも2023年7月の水害で甚大な被害を受けた地域だ。

当初は歓迎されるかに思われたが、現地では「頭がおかしくなりそうだ」といった苦情が相次いでいる。一体何が起きているのか。この詳細について、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

現場では現在、昼夜を分かたず建設工事が行われている。いわゆる「速度戦」だ。

これは、国が掲げる目標や金正恩氏の指示を短期間で達成するために、労働力や資源を総動員して突貫的に進める建設・生産運動のことだ。近年では道路建設、温室農場、住宅団地整備などにおいて「一日でも早く」「一気に完成させる」ことが強調されており、長時間労働や厳しいノルマが課される。

しかしこの「速度戦」は、生産性の向上や民生の安定よりも、政権の成果アピールや忠誠心の誇示を目的とした側面が強い。そのため作業現場では安全管理や労働者の健康が軽視されがちで、疲労の蓄積や事故の増加、周辺住民への騒音・生活被害といった問題が頻発している。また、手抜き工事や完成した建物の崩壊などの事故の原因となっている。

実際、現場の労働者はその日のノルマを達成できなかった場合、午前2〜3時まで作業を続ける。近隣住民にとって悩みの種なのは、その際に出る騒音だ。

といっても、建設作業に伴う騒音のことではない。

北朝鮮の建設現場などには、スピーカーを積んだワゴン車の前でアコーディオンを演奏し、旗を振り、歌を歌い、大音量でスローガンを叫び続ける女性の一団がいる。これは「機動芸術宣伝隊」と呼ばれるもので、作業効率を高めるのが目的だ。「扇動隊」「宣伝隊」などとも呼ばれる。

温室の建設現場では、次のようなスローガンが繰り返し叫ばれている。

「わが人民に文明的で豊かな生活を享受させるため、昼夜を問わず労苦を重ねておられる金正恩元帥の崇高な意志を奉じて進もう」

ところが、夜中までこのような放送を大音量で聞かされる近隣住民はたまったものではない。「何も手につかない」「気が狂いそうだ」と深刻な不満を訴えている。

情報筋は「人々は、夜間作業自体はこれまでもあったことだが、夜明けまで宣伝車が騒ぎ立てるのは初めてだと言っている。一日二日で終わる話でもなく、全員が夜間作業に動員されているわけでもないのに、宣伝車の音のせいで眠れず、気が変になりそうだと嘆いている」と述べた。

さらに、「夜明けまで働くこと自体もつらいが、交代で休んでいる人や翌日出勤しなければならない住民のことを考えずに、こんな騒ぎを起こすのは常識外れだという批判が多い。こんな指示を出した人間が正気なのか疑う声まで出ている」とも付け加えた。

放送がストレスになっているのは、現場で働く人たちも同じだ。

情報筋は、「労働者たちも、うるさい宣伝放送がかえって作業効率を下げている、むしろ宣伝車がいない方が仕事がしやすいと反応している。せめて休憩や就寝の時間だけでも静かに眠れるように、放送を止めてくれたらありがたい」と現場の声を代弁した。

地域住民の間では、「こうした放送は労働者の士気を高めるものではなく、あくまで上層部に『宣伝活動をやっている』と示すためのパフォーマンスにすぎない」との批判も出ている。

宣伝放送の有無にかかわらず、労働者たちは懸命に働いているようで、情報筋は、「見た目はそれらしく整ってきているが、内部では作業者たちがまるで今日しか残されていないかのように、狂ったように働いている」と述べた。

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