【解説】戦後80年に戦争の兆しは? NNN戦後80年プロジェクト「いまを、戦前にさせない」
戦後80年となる今年、私たちは「いまを、戦前にさせない」をテーマに放送を重ねてきました。27日は、伊佐治解説委員長とお伝えします。──伊佐治さん、節目の年の終わりに、いま何に注目しますか?はい、世界各地で現在も増え続ける犠牲者の数です。ロシアのウクライナ侵攻はまもなく4年が近づくのに、なお停戦が見えません。死者は両軍あわせて最大で35万人との推定もあり、民間人は合わせて1万5000人を超えるとみられます。パレスチナ自治区ガザ地区でも、停戦の第一段階に入ったとはいえ、衝突は継続し、死者が7万人を超えたとされます。こうした紛争終結への意欲をアピールしているのが、アメリカのトランプ大統領です。ただ、トランプ氏の和平案は、ロシア寄りで、力による現状変更を容認しかねないと批判もあり、戦後、アメリカが主導してきた国際秩序が揺らいでいます。──不安が広がる時代になっていますね。はい、石破前総理は退任の直前に、日本が戦争に再び向かわないため、戦後80年の所感を発表しました。日本はなぜあの戦争を始めたのかについて、「軍」をコントロールできなかった「政治」の機能不全、「情報力」の不足、偏狭なナショナリズムをあおって戦争を積極的に支持した「メディア」の責任などをあげました。──いま、日本が自ら戦争を起こすことは考えにくいですが。そうですね、それでも石破前総理は、自らの経験から警告しました。石破前総理「かくかくしかじか、こういうわけで戦争になったよね、ということが、きちんと説明できる戦争の方が少ないんだと思います。やはり偶発的なことから、大きな戦争に拡大していく。第一次世界大戦なんかその典型ですがね」今年、中国の戦闘機による自衛隊機への異常接近や、レーダー照射が続いた事への危機感を表しています。石破前総理「偶発的なことから大戦争にならないためには、例えば日本のトップと中国のトップというものが、常に連携、連絡し合えるような体制を構築できているか、ということが大事なんじゃないんでしょうか」──過去の事例に照らすと、戦争につながりかねない兆しが見え隠れしているんでしょうか?はい。警戒は必要ですね。戦争の兆しを見逃さない上で、経済には注意が必要です。1929年の世界大恐慌など経済状況も戦争の要因の一つといわれます。各国は自国の経済を守るために、一部の国同士のブロック経済化が進みました。トランプ政権の自国優先(アメリカファースト)の関税政策にも、当時の保護主義との共通点を指摘する声があります。日本は戦時中、国債を乱発し、際限なく軍事費を拡大しました。その反省から、戦後長く、赤字国債の発行は禁じられたものの、特例としての発行が続いている現状があります。石破前首相も、国の財政に懸念を示しました。石破前総理「安全保障っていうのは、常に万が一の事態というものを想定しながら構築されるべきものであってね。財政というものを拡大をし、そしてまた国債を多く発行し、海外にもいっぱい資産はあるんだみたいなお話は、私としてはリスクというものを過小評価してるんじゃないかなというふうに、思えてならない」今年の参議院選挙では“外国人の流入規制”などを掲げた一部の政党の主張がSNSで拡散され、過度な外国人排斥の風潮を生んだのではないかと懸念の声も上がりました。石破前総理の所感に関わった北岡伸一東大名誉教授は、「緊急に心配しているわけではないが、戦前も排外主義はあって、直接的な行動と結びついた。安倍元総理が殺害され、岸田元総理も襲われた。そういう事がおきやすい雰囲気への懸念は持っている」と述べました。現代の戦争は、サイバー攻撃やネットを通じた選挙介入など、武力攻撃にとどまりません。安全保障を重視する高市政権は、技術力の遅れも取り戻すべく、防衛費を拡大し、危機管理投資に力を入れます。一方で、国債発行による国の借金が拡大していることは、次世代への責任としても、しっかり監視していかねばなりません。──NNNは今年、戦争体験者の方の証言や、旧日本軍の戦争責任、緊迫する台湾情勢など、戦後80年の取材と報道を続けてきました。節目の年が終わろうとしていますね。そうですね。戦争を知らない世代が、2度と戦争をしない、戦争に巻き込まれないために何をすべきか。歴史から得る教訓を未来に語り継ぐ新たなスタートにしたいと思います。
──伊佐治解説委員長とお伝えしました。