山手線内で催涙スプレー噴射、被疑者の女性がすぐに「釈放」されたのはなぜ?

JR山手線内回りの車内で催涙スプレーを噴射し男性2人に怪我をさせたとして、10月20日の夜、30代女性が傷害の容疑で現行犯逮捕されたとの報道がありました。

日テレNEWSなどの報道によると、東京都豊島区の大塚駅付近を走行中の車内で、女性は優先席をめぐり被害者の男性と口論となり、催涙スプレーを噴射したということです。

一方で、その後の報道では、女性が「勾留に耐えられないと判断され、釈放された」とのことです。逮捕後に比較的すぐに釈放された背景には、どんな事情が考えられるのでしょうか。

今回、女性は傷害(刑法204条)の疑いで逮捕されています。同罪の成立には、人の身体の生理的機能を害する「傷害」結果が生じていることが必要です。

催涙スプレーの成分は、目や呼吸器などに強い刺激を与え、人の生理的機能を害するものです。今回のケースでは、実際に乗客2名が負傷しており、女性の行為と傷害結果の間に因果関係が認められれば、傷害罪が成立すると考えられます。

電車内という密閉された空間での催涙スプレーの噴射は、直接噴射された相手だけでなく、周囲の乗客にも健康被害を及ぼす危険性があります。実際に今回も複数の乗客が被害を受けており、公共の安全を脅かす行為として、その危険性は軽視できません。

一方で、報道によれば、女性はその後「勾留に耐えられないと判断され、釈放された」そうです。

刑事訴訟法上、被疑者の身体を拘束し続けるには、勾留の理由(逃亡や証拠隠滅のおそれなど)と、勾留の必要性の両方が必要とされます。

この勾留の必要性の判断にあたっては、身柄を拘束しなければならない必要性の高さと、身柄拘束によって被疑者が受ける負担の大きさ(不利益)をくらべます。

「不利益」には、被疑者の健康状態も考慮され、身柄の拘束を継続することが生命や心身の健康に著しい影響を及ぼす場合には、勾留の必要性が失われると判断されることがあります。

通常は、被疑者が「逮捕」された場合、48時間以内に警察から検察に「送致」され、送致後24時間以内に検察官が「勾留請求」を行うかどうかを判断します。勾留請求が行われない場合や、請求を受けた裁判官が勾留を認めない場合には、被疑者は釈放されることになります。

今回のケースでは、釈放の報道まで48時間も経っていないことから、検察官に送致される前に、警察の判断で釈放したものと考えられます。つまり、勾留請求されていない段階で、「勾留に耐えられない」と警察が判断したことになります。

その理由は推測するしかありませんが、警察が女性に事情を聞く中で、事件全体の事情(女性が優先席を必要としていた事情があったのか、なぜ催涙スプレーを所持していたのか、どうしてそれを使うことになったのか)や、女性側に何らかの体調不良や病気(肉体的、精神的な疾患いずれの可能性もあります)があるのかなどを検討し、今回は身体拘束による不利益が大きいため、勾留請求するような事案ではないと判断したのだと考えられます。

ただし、釈放は必ずしも無罪を意味するものではなく、捜査自体は在宅のまま継続される可能性があります。

優先席をめぐるトラブルから催涙スプレーが噴射され、複数の乗客が負傷した今回の事件では、法的には傷害罪が成立する可能性が高いと思われます。

その一方で、女性が釈放されたということから、単純に優先席をめぐって注意された女性が逆ギレした事件、というだけでは片付けられない複雑な事情が存在する可能性があります。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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