特撮で描く震災破壊のリアル 「ガメラ」手がけた美術監督の葛藤、31年目の決意と警告
阪神大震災の記憶を後世に伝える「人と防災未来センター」(神戸市)で、平成14年の開館当時から上映されている映像がある。倒壊する高速道路、押しつぶされる家屋-。発生の瞬間をリアルに再現した映像を手がけたのは、平成「ガメラ」シリーズなどで知られる特撮美術の第一人者、三池敏夫さん(64)。被災者の辛い記憶をよみがえらせたのではないかとの後ろめたさもあり、映像のことは長年口にしてこなかったが、震災の記憶を継承すると決意した。
怪獣映画と違う重圧
大型スクリーンに静かに浮かび上がる阪神高速道路。次の瞬間、画面が激しく揺れ、地鳴りのような重低音が響く。コンクリートの橋脚が崩壊し、鉄筋がねじ曲がった無残な断面をさらけ出す。高速道路は横倒しとなり、灰色の粉塵(ふんじん)で周囲は真っ暗になった。
7分間の再現映像「5:46の衝撃」は震災発生6年後の13年に制作を開始した。当時、CG(コンピューターグラフィックス)技術は発展途上だったことから、ミニチュア特撮の技術を持つ東宝映像美術(東京都)に制作の話が舞い込み、同社から三池さんに依頼があった。
インタビューに応じる特技監督の三池敏夫さん=令和7年12月5日午後、東京都町田市(梶山裕生撮影)今と比べて屋外のカメラはほとんどなく、未明の発生とあってその瞬間を捉えた映像記録はほとんどない。発生前後の写真を集め、その間の倒壊の様子は「想像で埋めるしかなかった」と振り返る。
「建物が壊れる描写は散々やってきた」というが、被災地の悲惨さに言葉を失った。「人々が暮らしていた街や生活の場を再現し、リアルに破壊していいのか。生々しく記憶をよみがえらせることは正しいのか」。制作中は常に後ろめたさと戦っていたという。
橋脚に込めたリアル
ただ、引き受けた以上は、現実に起きたであろうことを忠実に描かねばと考えた。制作期間は短く、資料収集などのリサーチはわずか1週間だったが、フィクションである怪獣映画とは異なるアプローチを徹底した。
例えば、被害の象徴となった阪神高速道路。25分の1スケールの全体模型に加え、折れた鉄筋コンクリートの橋脚部分を10分の1スケールで別に制作した。揺れの衝撃でコンクリートの外に鉄筋が飛び出した様子をリアルに表現したかったからだ。
震災被害の象徴ともなった横倒しになった阪神高速道路の模型(三池敏夫さん提供)「本来は強固なはずの鉄筋コンクリートがひしゃげ、ねじ切れる。それほどの揺れだったことを描かなければ噓になる」。怪獣の力や光線ではなく、自然の猛威による物理的な崩壊をみせるため、火薬による派手な爆発は極力排除した。
木造家屋には模型飛行機に使われるバルサ材を使用。石膏(せっこう)では表現できない、木造建築特有の粘りと、それが限界を超えて圧壊するさまを再現した。一方で、生活感がにじむ商店街の描写には心苦しさもあり、架空のアーケード街として描く配慮もした。
完成した再現映像は「技術者たちが限られた時間と予算の中でベストを尽くした結晶」と誇りを持つ。にも関わらず、これまでこの仕事について積極的に語ることはなかった。「『見事に壊しました』と胸を張れる仕事ではないから」だ。しかし昨年、センターから「震災30年の節目に再現映像の企画展をしたい」との申し出を受け、沈黙を破る決意をした。
今、最も懸念するのは現代都市の脆弱(ぜいじゃく)さだ。「倒れないはずだったものが倒れたことが震災の教訓」というが、国内の多くの都市部は当時以上の高層ビル群で過密状態にある。「もし断層がずれ、地盤が傾斜するような事態が起きれば、どんな最新の耐震構造も無意味になるかもしれない」と危惧する。
「人間が考える想定には根拠がない。あり得ないことが起きるのが災害だ」。特撮技術で実際に起きた恐怖を描いた映像は、薄れゆく震災の記憶を伝承し、現代社会への警告を発し続けている。(香西広豊)
◇
みいけ・としお 昭和36年、熊本県生まれ。九州大工学部卒業後、特撮監督の矢島信男氏に師事。東映の戦隊シリーズ、仮面ライダーなどに携わった後、フリーに。東宝のゴジラシリーズ、大映のガメラシリーズ、円谷プロのウルトラマンシリーズなどに特撮美術として参加。現在は特撮研究所(東京都)に所属。