自民総裁選は物価高対策が争点、一律給付は実現困難に-候補者横顔

22日告示される自民党総裁選は物価高対策などが争点になる。与党が参院選で掲げた一律給付は実現が困難となり、立候補表明した5人はガソリン暫定税率の廃止や所得税減税などを主張している。

  石破茂首相の辞任表明に伴う臨時総裁選で、5人はいずれも前回に続いての挑戦だ。上位につけていた高市早苗前経済安全保障担当相と小泉進次郎農相を軸に林芳正官房長官、小林鷹之元経済安保相、茂木敏充前幹事長が争う。

  物価高について小泉氏は直ちに経済対策を策定し、今年度補正予算案を臨時国会に提出する方針を出馬会見で表明した。公約となる「主要政策」では所得税制の見直しや与野党で合意したガソリンの暫定税率の速やかな廃止に取り組む方針を明記。「あらゆる選択肢」を排除せず、政党間の協議を進めるとした。

  高市氏はガソリン・軽油引取税の暫定税率廃止や所得税の課税最低限を引き上げる「年収の壁」の見直しに加え、減税と現金給付を組み合わせた「給付付き税額控除」の制度設計着手を掲げた。 

  林氏は世帯の状況に応じて低・中所得者を支援する「日本版ユニバーサル・クレジット」、茂木氏は数兆円規模の生活支援特別地方交付金の創設をそれぞれ提唱。小林氏は中間層・現役世代を支援するためとして所得税の時限的な定率減税を主張している。

  一方、消費税減税や参院選で与党が掲げた一律給付の実現を公約に明記した候補はいなかった。

  党所属国会議員の295票と同数に換算した党員・党友票の計590票を争う。新総裁は就任後、国会での首相指名選挙に臨む。与党は衆参両院で過半数割れしており、野党の対応次第で新総裁が首相に選ばれない可能性もある。各候補の横顔と政策をまとめた。

高市早苗前経済安全保障担当相

  英国の故サッチャー元首相を目標とする。学生時代にはヘビーメタルバンドでドラムを担当していた。松下政経塾出身の64歳。昨年の総裁選では1回目の投票でトップに立ったが、決選投票で石破首相に逆転された。石破政権では要職につかなかったが、高い知名度から参院選でも応援演説で全国を回った。

  安倍晋三元首相の後継者と位置付けられている。出馬表明会見で「今や世界の潮流は行き過ぎた緊縮財政ではなく責任ある積極財政」だと指摘。危機管理や成長に向けた投資を進めるとした。一方、参院選前に主張していた消費税減税は「今の物価高対策として即効性はない」とする姿勢に転じ、公約に盛り込まなかった。

  2021、24年に続く3回目の挑戦。初の女性首相への期待感から陣営に加わった議員もいる。19日の記者会見では自身の看護や介護の経験に言及し、「介護や育児、子どもの不登校などで離職する人を減らしたい」と女性のキャリア継続支援に対する強い思いを語った。

主要政策:

  • 金融:昨年9月の総裁選時には利上げをけん制する発言も、出馬表明会見では言及せず
  • 経済財政:給付付き税額控除の制度設計着手、所得税の年収の壁引き上げ
  • 外交安全保障:戦略三文書の見直しとスパイ防止法制定に着手
  • 外国人政策:外国人問題の司令塔の強化、土地取得規制などの関連施策を強化
  • その他:対日外国投資委員会の創設、次世代革新炉・核融合炉の早期実装

小泉進次郎農相

  小泉純一郎元首相の次男。自民党が野党に転落した09年の衆院選で初当選した。44歳。昨年の総裁選では国会議員票でトップだったが、党員票が伸びず3位となり決選投票に進めなかった。菅義偉副総裁に近いとされる。6日には菅氏とともに石破首相を訪ね、自発的に辞任するよう促したと報じられている。

  石破内閣発足時に選対委員長を務めたが衆院選敗退を受け、辞任。その後、江藤拓氏が失言で辞任したことを受け、農相に就任した。コメ価格高騰対策では政府備蓄米を随意契約で売り渡す方式を導入し、引き下げに尽力した。石破首相の下、コメ増産を打ち出したが、農家の不安払しょくが課題となる。

  総裁選の公約では30年度までに国内投資135兆円、平均賃金100万円増を目指す目標を掲げた。昨年訴えた解雇規制見直しや保守層から反発を受けた選択的夫婦別姓を認める法案の国会提出は明記しなかった。

主要政策:

  • 金融:出馬会見で日銀と政府が物価安定と経済成長に向けて歩調を合わせることが重要だと発言
  • 経済財政:財政規律を意識しつつ、インフレ下の税収増活用し経済成長実現
  • 外交安全保障:日米同盟基軸に同志国ネットワークの強化、特に日米韓の枠組みは死活的に重要
  • 外国人政策:司令塔機能を強化し、年内にアクションプランを策定
  • その他:意欲あるコメ生産者が不安なく増産に取り組める体制構築、26年度の防災庁設立

林芳正官房長官

  2回目の挑戦だった昨年の総裁選では4位だった。政策通として知られ、参院議員時代に農相、文部科学相などを歴任。21年から衆院に転身し、岸田政権下で外相、官房長官を務めた。石破政権でも官房長官に再任され、政権基盤がぜい弱だった首相を支えた。

  解散した岸田派でナンバー2の座長を務めていた。楽器をたしなみ、主要7カ国(G7)外相の前でピアノの弾き語りを披露したことがある。64歳。

  18日の会見では賃上げを重視した石破政権の方針を継承する姿勢を示した。ただ、物価高対策で与党が掲げた一律給付の扱いに関しては、参院選の結果と自民党の検証結果も踏まえて「臨機応変に対応したい」と見直す可能性を示唆した。

主要政策:

  • 金融:官房長官として金融政策の具体的手法は日銀に委ねるとの政府見解を繰り返した
  • 経済財政:「実質賃金プラスを当たり前に」、消費税は社会保障の貴重な財源
  • 外交安全保障:防衛力の抜本的強化、日米同盟の抑止力・対処力の強化
  • その他:国民皆歯科検診、衆院選挙制度改革の議論開始、需要に応じたコメ生産で安定供給確立

小林鷹之元経済安全保障担当相

  50歳の小林氏は、若い世代のリーダーの1人と目されている。9人が立候補した昨年の総裁選では中堅・若手議員の支持を得て一番乗りで立候補表明の記者会見を行い、5位に食い込んだ。石破政権では要職につかず、参院選後は首相の早期退陣を促す発言を続けていた。

  サラリーマン家庭に生まれ、財務官僚になったが、12年の衆院選で野党だった自民党から出馬し、政界入りした。宇宙資源法など議員立法にも取り組み、岸田内閣で初代の経済安全保障担当相を務めた。

  16日の会見では「もう一度日本を世界の頂、テクノロジー大国に押し上げる」とし、戦略産業や地方への投資を掲げた。現役世代支援に重点を置いた所得減税も打ち出した。野党との関係は「数あわせで連立することは本末転倒だ」とした上で、重要政策で一致できるかが大切だとの考え方を示した。

主要政策:

  • 金融:日銀の専管事項、成長経済に入れば自(おの)ずと変わってくるだろう
  • 経済財政:期限を区切った所得税の定率減税と、控除・税率構造を含めた抜本見直し
  • 外交安全保障:防衛費の引き上げ、日米関税交渉の履行体制の確保
  • 外国人政策:住宅用土地取得規制、不法滞在者ゼロの厳格な出入国管理
  • その他:緊急事態条項と自衛隊明記を優先して憲法改正に取り組む

茂木敏充前幹事長

  大手コンサルタント会社勤務などを経て1993年の衆院選で初当選。現職幹事長として挑んだ前回の総裁選では6位だった。石破政権では要職から外れた。参院選後はYouTubeで党の再生には「リーダーも含めて主要なメンバーも決めてやり直していく姿」が必要と指摘し、首相を含めた執行部の交代を主張した。

  経済産業相、外相、党政調会長なども歴任した69歳。日米貿易協定など通商交渉も担当したことがあり、「タフネゴシエーター(手ごわい交渉相手)」のイメージを売りにする。

    2回目の挑戦となる出馬会見で、自民は結党以来最大の危機に直面し、「倒産寸前」にあるとして党再生に自身の経験を生かす考えも示した。数兆円規模の生活支援特別地方交付金の創設を提唱している。国会運営では安定政権を確立するため、日本維新の会や国民民主党を挙げ、新たな連立の枠組みを追求すると明言した。

主要政策:

  • 金融:異次元緩和の段階的な正常化が基本方向、具体的判断は日銀が適切に行う
  • 経済財政:財政にも責任を持たねばならない、2年以内に物価高上回る賃上げ定着
  • 外交安全保障:日米関税合意を着実に実行、「力強くしたたかな外交」行う
  • 外国人政策:これ以上外国人労働者に依存しなくても働き手不足補える対策を取りたい
  • その他:ジェネリック医薬品の業界再編必要、原子力と再エネ組み合わせてGXを進める

— 取材協力 Sumio Ito

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