世界で550例の希少疾患KAND 「たこやき」の輪で闘う患者と家族

遺伝性疾患「KAND」について知ってもらおうと話し合う広川信隆・東京大名誉教授(左端)、たこやきの会の織田菜々子会長(右から3人目)ら。右端で抱かれているのが凌太朗ちゃん=東京都文京区の東京大で2025年12月1日午前11時28分、田中泰義撮影

 病名がなかなか特定できない。分かったとしても情報が極めて乏しい。相談できる人も見当たらない。誰もがそんな疾患に向き合う可能性がある。

 世界で約550例しか報告されていない病気と闘う患者や家族の姿を紹介する。

 この病気は遺伝性疾患「KAND」(KIF1A関連神経疾患)。脳の神経細胞で生命活動に必要な物質を運ぶ分子モーター「KIF1A」の遺伝子に変異が生じるのが原因だ。遺伝子は1992年、広川信隆・東京大名誉教授のチームによって発見された。

 影響は脳や筋肉、感覚器などさまざまな臓器に表れる可能性がある。

 てんかんや発達遅滞、視覚障害、小脳萎縮、脊椎(せきつい)側湾……。特有の症状が少なく、病名を突き止めるのは極めて難しい。

 広川さんは「遺伝子検査を実施せずに、症状から他の病名が付けられている可能性もある。患者は相当数いるのではないか」と推測する。

「たこやき」に込めた思い

 「医師に首をかしげられ、支援窓口から育児ノイローゼと勘違いされることもあった。孤独だった」

 2025年6月、この病気を発症した子どもを持つ保護者が結成した患者団体「たこやきの会」の織田菜々子会長(37)=兵庫県=は振り返る。

 長男凌太朗ちゃん(2)の異変に気づいたのは生後4カ月だった。健診で「眼球の動きが不十分」と指摘された。その後も体重は増えにくく、表情は乏しい。けいれんも相次いだ。

 クリニックや地域の中核病院を渡り歩き、大学病院で遺伝子検査を受け、1歳3カ月の時に病名が特定された。

 会の名称には、さまざまな具材を使うたこ焼きのように、各分野の人々が参画して、丸く温かい「支援の輪」を築きたいとの思いを込めた。

 現在、9家族が参加する。医師らの情報提供を参考に、患者を抱える家族は少なくとも20あることを確認した。当事者間のコミュニティー構築や情報収集・発信などに取り組む。

 医師や研究者との連携も重視する。

 12月1日には東京都内の東京大に広川さんを訪ねた。神経科学を専門とする森川真夏・順天堂大特任助教や岩田卓・筑波大助教も同席。クラウドファンディングで活動資金を募るほか、…

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