【解説】なぜAIの次は「量子コンピュータ」と言われるのか 「不思議とは古い理論への執着、工学とは不思議を制御し応用すること」
量子コンピュータはこれから世界をどう変えるのか? 正直にいうと、私たち研究者にもまだはっきりとはわからない。それが知りたくて量子コンピュータの研究をしている。 1950年代の科学者たちが、将来コンピュータが人類全体のコミュニケーションや経済の基盤になるとは想像できなかったように、量子コンピュータが何をもたらすかも、これから形づくられていくものだ。 しかし、確かなのは「何かすごいことが起きそうだ」という予感である。そして、そうした予感を信じて手を動かし続けた人たちが、現代のインターネットや生成AIを作ってきた。 2017年にはマイクロソフトが、アンモニア合成の解析に量子コンピュータが利用できると発表した。アンモニア合成には全世界の数パーセントのエネルギーが消費されているため、食料・エネルギー分野に大きな革命をもたらし得る。 グーグルは、人体内に存在する酵素を解析する量子アルゴリズムを開発している。この酵素は、薬の効き目や副作用に深く関係しており、正確な予測ができれば新薬の開発スピードや安全性が飛躍的に高まると期待されている。 このような量子コンピュータの応用は、食料・エネルギー・創薬だけにとどまらない。電気自動車に不可欠なリチウムイオンバッテリーの性能改善、夢のエネルギーである核融合のための材料設計など、その可能性は無限に広がっている。 なぜ量子コンピュータがそこまで幅広く使えるのか? 理由はとてもシンプルだ。私たちの自然界を支配している物理法則そのものが「量子力学」だからである。 自然を、自然の言葉である量子力学の原理で“計算”できる機械。それが量子コンピュータだ。これまで地球が46億年という進化の歴史のなかでたどり着いてきた、生命、物質、エネルギーの精せいち緻な構造、その「最適解」を読み解く鍵が、量子コンピュータによって与えられようとしている。 量子コンピュータは「単なる速い計算機」ではない。 自然を深く理解し、人類の知の地平を押し広げる“新しい望遠鏡”であり“顕微鏡”でもあるのだ。 ※ この記事は『教養としての量子コンピュータ』(ダイヤモンド社)からの抜粋です。
Keisuke Fujii