大麻合法化から一転、10億ドル産業にタイ政府が急ブレーキ-農村打撃
タイは2022年に東南アジアで初めて大麻を合法化した。この決定が「グリーンラッシュ(大麻ビジネスの急成長)」を引き起こし、瞬く間に経済構造を塗り替え、長く維持してきた文化規範を揺るがすことになった。バンコクなどの都市部では大麻販売店が急増し、全国では1万軒を超えるまでになった。
しかし、最大の恩恵を受けているのは、豊かな自然に恵まれた北部の農村地域かもしれない。もっとも、政府がこのビジネスを再び全面的に禁止する事態にならないことが前提だが。
タイ北部の山岳地帯は、理想的な気候と肥沃(ひよく)な土壌に恵まれており、モン族などの少数民族が代々土地を耕し、在来植物への深い知識と持続可能な栽培法を守り継いできた。かつてこうした地域は違法なケシ栽培と結び付いていたが、1960年代後半以降はトウモロコシや茶、野菜といった、より健全な作物にシフトしている。
タイで年間10億ドル(約1500億円)を超える規模に成長した合法大麻産業はここ数年、こうした農村に収益面での転機をもたらしてきた。だが6月下旬、政府が突如として、医療を除く大麻の使用を再び非合法とする方針を表明したことで、業界は混乱に陥った。
政府は、大麻の使用を医療目的に限定し、処方箋の取得と顧客1人当たり30日分の供給上限を義務付ける方針を打ち出した。さらに、大麻観光の急増や密輸、未成年の娯楽目的での使用を抑制するため、各販売店に医師の常駐を義務付ける規則も策定される見込みだ。大麻が再び「カテゴリー5」の麻薬に分類されることもあり得る。
販売・流通面の規制強化が迫る中、山間部の地域社会と大麻ビジネスの支援者は、需要の減少や広範な失業といった深刻な打撃に備えている。
モン族の農民の中には、より収益性が低い上に環境負荷の大きい作物に回帰せざるを得ないのではないかと危惧する人もいる。収穫後に野焼きを行う伝統的な栽培法がタイ北部の大気汚染を悪化させているトウモロコシも、そうした作物の1つだ。
それでも大麻擁護団体「ライティング・タイランズ・カンナビス・フューチャー」の代表、チョクワン・キティー・チョパカ氏は、農村社会が大麻栽培を完全に放棄することはないとみている。
「モン族の人々は、いつの時代も種を守ってきた。これからも守り続けてくれればと願っている」とチョパカ氏は語った。
(原文は「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」誌に掲載)
原題:Thai Cannabis U-Turn Leaves Agricultural Communities at a Loss(抜粋)