実質金利は極めて低水準、見通し実現していけば利上げ=日銀総裁
[東京 17日 ロイター] - 日銀の植田和男総裁は17日、金融政策決定会合後の記者会見で、引き続き経済・物価の改善に応じて政策金利を引き上げていくと述べる一方で、経済・物価ともに「下振れリスクの方が大きい」とし、早期利上げには慎重な姿勢を示した。2026年4月以降の国債買い入れ減額のペースを現行計画から半減させることについては、市場の安定に配慮したと説明した。
<慎重な発言相次ぐ>
植田総裁は、現時点で各国の通商政策などの今後の展開や、その影響を巡る不確実性が極めて高いことを踏まえると、経済・物価ともに「下振れリスクの方が大きい」と指摘。日銀として各種データやヒアリング情報など、できるだけ幅広い情報に基づいて分析を行うことが従来以上に重要となると語った。
足元では、コストプッシュ要因が主導する形で物価が上振れ気味で推移している。中東情勢の緊迫化で原油先物価格が急上昇しており、物価への影響が注目される。植田総裁は、食品や原油の上昇が続けば、期待インフレや基調的な物価上昇率に「二次的な影響を与えるリスクがある」とする一方で、通商政策の影響が出てきて製造業の企業収益が低下に向かうことで「コストカット型の価格・賃金設定を復活させるリスクも無視できない」と話し、注意深く見ていく姿勢を示した。
植田総裁は基調的な物価上昇率は「2%をやや下回っている」とし、ビハインド・ザ・カーブに陥るリスクについては「そういう状況にはない」と明言した。
政府が検討している給付金などが「高い伸び率となっている消費者物価総合のインフレ率の消費に与えるマイナスの影響を少し弱め、息の長い消費の成長を支える」とし、そのことが基調的な物価上昇率にどう影響するか見極めたいと指摘。一方で、海外の通商政策の影響が今年後半に本格化すれば「逆方向に基調的物価に影響を与える可能性」があり、基調物価の見方や政策判断につなげていきたいと語った。
米国の関税政策を巡っては、石破茂首相とトランプ米大統領が日本時間17日に会談したが合意には至らず、閣僚級協議を継続することになった。植田総裁は、通商交渉自体は見守るしかないが、後ずれすればするほど通商政策を巡る状況が不確実であるという判断が続くことにならざるを得ないと述べた。
<買い入れ減額のペースダウン、市場安定に配慮>
植田総裁は、金融市場で長期金利がより自由に形成されていくようにするには、国債買い入れを減額していくことが望ましいと指摘。ただ、国債買い入れの減額が進展する中で今後の減額ペースが速すぎると市場の安定に不測の影響を及ぼす可能性もあり、今回の会合では「両方の考え方のバランスを勘案した」と語った。四半期当たりの減額幅が4000億円か2000億円かは「限界的な違い」に過ぎないが「少し慎重に進もうということで2000億円にした」とも述べた。
27年4月以降の計画については「来年の中間評価の段階で改めて考えを示す」とし、月間買い入れ額や日銀の国債保有量の着地点については明言を避けた。
<国債補完供給の減額措置>
イールドカーブ・コントロール(YCC)の末期に当たる23年2月、投機筋主導で金利上昇圧力が高まった際、日銀はSLFの趣旨に立ち返り、同制度を使いづらくする制度改正を行った経緯がある。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab