クルマのタッチパネル(タッチスクリーン)は「物理ボタン」に回帰すべき?(スマホライフPLUS)

昨今、自動車のインテリアデザインに最も大きな影響をもたらしたのは、間違いなくテスラ(Tesla)です。特に「モデルS」の登場以降、センターコンソールに縦型の巨大なタッチスクリーンを配置するスタイルは、瞬く間に自動車業界のスタンダードとなりました。 【画像でわかる】iPhoneの標準マップをカーナビ代わりに使う際の注意点と4つの必須設定 メーカーにとっては、無数のスイッチや配線、それらを制御する個別の部品を削減できるため、製造コストの削減と組み立て工程の簡素化が可能になります。また、スマートフォンのようにアップデートでUI(ユーザーインターフェース)を更新できるため、車を販売した後でも機能を追加・改善できる点は画期的でした。 ユーザーにとっても、ミニマルで洗練されたデザインは魅力的であり、スマホ世代にとって直感的な操作感は「新しい時代の車」を感じさせるのに十分でした。たとえば、現在のテスラの一部モデルでは、シフト操作までもがディスプレイ内に集約される例が登場しています。 しかし今、この「タッチパネル至上主義」とも言えるトレンドに、大きな変化の波が押し寄せています。先進性の象徴であったはずのタッチパネルに対し、「物理ボタンに戻すべきだ」という声が、ユーザーのみならず自動車メーカー、さらに安全評価機関からも上がり始めているのです。なぜ今、物理ボタンへの回帰が叫ばれているのでしょうか。

タッチパネル操作における最大の欠点は「ブラインド操作ができない」という点です。 物理ボタンやダイヤルであれば、ドライバーは前を見たまま、手探りでエアコンの温度を変えたり、音量を調節したりすることができます。ボタンの凹凸やクリック感(触覚フィードバック)が、操作の完了を指先に伝えてくれるためです。 しかし、フラットなガラス面であるタッチパネルではそうはいきません。操作するためには、どうしても視線を道路から外し、画面上の小さなアイコンを目で追って、正確に指を触れる必要があります。 加えてタッチパネル操作は物理ボタンに比べて操作完了までに時間がかかりやすいのです。メニュー階層を掘り下げる手間や、タップしてからシステムが反応するまでのわずかなラグが、ドライバーにストレスを与え、運転への集中力を削ぐ原因となりかねません。 こうした状況を受け、ヨーロッパの自動車安全テスト機関である「Euro NCAP」は、2026年から新たな評価基準を導入する方針を示しました。それは、「方向指示器、ハザードランプ、ワイパー、ホーン、SOSボタン」などの重要な機能については、物理操作系がなければ最高評価(5つ星)を取得できないという基準です。 これは単なる「使い勝手」の話ではなく、「タッチパネルへの過度な依存は安全上のリスクである」と公的機関が認めたことを意味します。 ■ポルシェに見る「物理ボタン回帰」 こうした揺り戻しの象徴と言えるのが、スポーツカーの名門ポルシェの動向です。 ポルシェは電動スポーツカー「タイカン(2023年モデル等)」において、先進性をアピールするために徹底したタッチパネル化を推進しました。エアコンの吹き出し口の調整すら画面上の操作で行う仕様は、まさに未来のコックピットそのものでした。 しかし、その後に発表されたSUVの新型「カイエン(2024年モデル)」では、興味深い変更が加えられています。センターコンソールには、エアコンの温度調整や風量調整、オーディオのボリュームといった使用頻度の高い機能のために、物理的なトグルスイッチやボタンが「復活」したのです。 この復活は、ポルシェが「ドライバーが運転に集中するためには、直感的に操作できる物理ボタンが不可欠である」と再認識した結果だと言えるでしょう。 ■タッチスクリーン「継続派」の動向 一方で、すべてのメーカーが物理ボタンへの完全回帰を選んでいるわけではありません。巨大なスクリーンへの投資を続けつつ、ソフトウェアや別のハードウェアで弱点を補おうとするアプローチも見られます。 たとえばBMWは依然として大型スクリーン(カーブド・ディスプレイ)を中心としたインテリア戦略を継続しています。彼らが目指す解決策はドライバーによる「徹底的なカスタマイズ」と「ハンドルの活用」です。BMWの最新OSでは、ドライバーがよく使う機能や欲しい情報をウィジェットとして配置し、少ない階層でアクセスできるよう工夫されています。 さらに「手はハンドルに、目は道路に」という原則を守るため、ステアリングホイール(ハンドル)自体に物理ボタンや多機能スイッチを充実させることで、画面に触れずとも主要な操作を行えるようにしています。なお、韓国のヒョンデ(Hyundai)やキア(Kia)も同様の戦略をとっています。 ■音声AIと車載操作の未来

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