「かゆい、かゆい」3歳が耳かき一杯で救急搬送 “重症化”しやすいナッツアレルギー 外食に潜むリスクと支える家族

クルミやカシューナッツなど、子どもたちの間で急増するナッツアレルギー。少量でも命に関わる症状を引き起こすことがあり、家庭や学校、外食先での対応が欠かせない。親は「いただいたケーキも怖くて食べられない」と不安を抱える。家族の日常を取材すると、制度の隙間に置き去りにされた現実が見えてきた。

咳が止まらず、嘔吐…症状の特徴

クルミ、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオ、アーモンド――。いずれも子供たちの間でアレルギーが増えているナッツ類だ。

この写真は、男の子がクルミアレルギーを発症したときのもの。

体中にじんましんができ、咳がとまらず、嘔吐が続くなど、少しの量でもアナフィラキシー症状をおこしやすいのがナッツアレルギーの特徴だ。

こうした問題を踏まえて、クルミについては、2年前にアレルギー表示が義務づけられる特定原材料の一つに指定され、2025年度内にカシューナッツも加わる予定。

しかし、表示義務は外食や、ケーキ店などには適用されず、ナッツアレルギーを持つ子供の親は不安を抱えている。

母:お土産で(ケーキを)いただいても、やっぱり怖いからと避けていたので…

ナッツアレルギーを持つ人たちやその家族の1日にスポットライトをあてると、難しい社会課題が浮かび上がった。

耳かき一杯で搬送…6歳の重いアレルギー

小学1年生で、サッカーと野球が大好きな6歳の男の子。趣味は、最近買ってもらった自転車で近所の登り坂を制覇することだという。

しかし、ある困りごとがある。

実はこの男の子、クルミとカシューナッツの重い食物アレルギーを持っている。

3歳の頃、初めてアレルギーの症状が出て、救急搬送された。

母:えびせんを食べることになって、耳かきひとさじ分かじっただけで、ちょっと様子がおかしいな思っていたんですね。服をめくったら全身真っ赤になってて、「かゆいかゆい」って言い出したのでおかしいなと。

子どもの救急相談センターに電話をし、担当者から「これはアナフィラキシーなので、すぐ救急車を呼んでください」と言われて、その後搬送された病院で治療を受けた。

検査をしたところ、えびせんに含まれたえびではなく、カシューナッツに反応したことが分かった。ほかにも、落花生(ピーナッツ)やアーモンド、クルミ、ヘーゼルナッツへのアレルギーも判明した。

ナッツ症例10倍に 重症化しやすい特徴

この男の子のように、ナッツアレルギーになる子どもがいま急増している。

症例数は、この12年でおよそ10倍に増加。2023年の調査では、ナッツ類が原因となったアレルギーの件数は卵についで2位。落花生を足すと、鶏卵を上回る。

年齢別で見ると、特に3歳〜17歳では、エビや卵を押さえてクルミが1位に。

ナッツ類のアレルギーが増えた背景について、食物アレルギーを専門とする海老澤医師は消費量の増加があると分析する。

海老澤医師:過去20年ぐらいの間に日本人のその消費量の増加は、クルミもカシューナッツも大体2倍から3倍ぐらいになってきてまして。アレルギーの特性として、比較的重い症状が多くなりやすい。カシューナッツなどではアナフィラキシーを起こし、呼吸器とか消化器系にも症状が出て、最悪、進行してくるとショック症状になる。

支える家族へ心ない言葉も

治療は、家族みんなで支えている。

これは、男の子の母が作成した家事リスト。掃除の項目だけでもこんなにある。

お気に入りのぬいぐるみも週に1度、アレルゲン除去のため洗濯機で丸洗いする。

週2回の在宅勤務と年10回まで使える「看護休暇」で仕事と育児を両立しているが、過去の職場では、「そんなに頻繁に(仕事を)休むなら仕事やめたら?」などと、心ない言葉もかけられたという。

「克服したい」家族で挑む治療

この日、男の子は少しずつ食べることで、アレルギーの克服を目指す「経口免疫療法」のため、家族でクルミ入りのチョコレートを作っていた。

「(クルミを)食べれるようになりたい」。クルミを細かく砕き、はかりで計測した後、母が砕いたクルミにチョコレートを流し、カラフルなトッピングを盛り付けて…完成。

男の子:「いただきます」

勇気を出して「パクッ」。

少し目のかゆみが出たが、体調の変化もなく無事クリア。

5日後…、男の子は次のステップのため、病院を訪れていた。

母:(きょうは)クルミ、この前食べたのよりちょっと多いんだって

男の子:えー!

母:大丈夫そう?

食べられる量をさらに増やすには危険が伴うため、自宅ではなく専門の医師のもとで行う必要がある。

緊張する男の子。目標の0.5グラムのクルミ入りチョコレートに挑戦した。

その後、体調の変化はなく、見事、目標の0.5グラムをクリアした。

この日は、同じく重いクルミアレルギーに悩む別の4歳の男の子も病室にいた。

まずは20分の1の0.025グラムに挑戦。しかし数分後、異変が…。

4歳の男の子:かゆい

母:ちょっと痒い?

おなかの痛みも訴え、「帰りたい」と言い出した。

医師:次、どうする?もう一回(クルミ)食べてみる?

4歳の男の子:食べない!もっとひどくなるから

このあともう1口飲んでみることにしたが、帰宅後に症状が出たことで、判定は持ち越しに。簡単には乗り越えられないのがアレルギーの治療だ。

外食に潜むリスクと不安

アレルギー患者にとって、日常生活で最も困難に感じるというのが「外食」。メニューにアレルギー表示がない店では、店員とのコミュニケーションが欠かせない。

母:子ども用のハンバーガーなんですけど、ナッツは特に使用していないですよね?

店員:はい

しかし、店員からナッツが含まれていないことを確認した後、責任者がやってきた。

責任者:全く100%除去しているわけではないんですけど、コンタミネーションは大丈夫ですか?

母:コンタミは大丈夫です

調理の過程で、同じまな板などを使うことで予期しない混入、いわゆるコンタミネーションの可能性がゼロではないとの説明があった。

パッケージに入った食品のアレルギー表示については、順次、義務化が進んでいるが、外食やケーキのように店内で作って提供する食品には表示の義務はない。

そのため、誤って食べてしまうリスクが常につきまとう。

“自主任せ”の外食表示 制度化に立ちはだかる壁

外食での「表示のルール作り」が進まないのはなぜか。

海老澤医師:自主的な表示はある程度時間がかかるのと、社会の機運っていうか、患者団体とかの皆さんがそういうことを行政に働きかけて、政府が推奨していく感じになれば状況は変わってくるのかなと思う

国会でも、ルール作りを求める声があがっている。

消費者庁の幹部は、取材に対し「事業者の規模が多様で原材料も頻繁に変わるためルールの統一化は難しい課題」としていて、実態調査を行っている。

(「イット!」10月6日放送より)

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