アングル:トランプ政権の予算削減案で米環境研究に暗雲、山火事対策に影響も
[ワシントン 1日 ロイター] - 米国で山火事が今年も壊滅的な被害をもたらすと予測されている中で、トランプ米政権が進める政府職員の大規模削減の影響により、環境保護局(EPA)の科学者らが開発した大気汚染を測定するセンサーが、事実上使えなくなったことが分かった。事情に詳しい3人が明らかにした。
このセンサーは「コリブリ」という名称で、靴箱ほどの大きさがある。山火事が起きた際にはドローン(無人機)に取り付けて煙の中を飛行すれば大気汚染の状況や、煙が人の健康に及ぼす影響を調査できる。
しかし、トランプ政権がEPAの研究開発部(ORD)を閉鎖する見通しになり、コリブリを含めた全米の幅広い研究の将来が危ぶまれている。
米下院科学・宇宙・技術委員会が確認した内部文書によると、ORDの職員約1200人のうち最大75%が解雇される可能性がある。ORDの閉鎖は、トランプ大統領が掲げたEPA予算の65%を削減する計画の一環となる。
ORDに所属する職員宛に1日送られた電子メールによると、2日午後に集会が開かれる。ロイターがこのメールを確認した。
3人の情報筋によると、コリブリに携わる主要スタッフの解雇が間近に迫っているため、運営が停止される見込みだ。
山火事の研究に携わるアイダホ大のレダ・コブジール教授はロイターに対し、コリブリに関わっているスタッフはこの分野で世界を主導しているとして「彼らの技術とツールは、他の誰にもできない煙の調査で極めて重要な役割を果たしている」と称賛した。
10人を超えるEPA職員はロイターに対し、トランプ政権による予算と出張の削減が響いて11の部署で研究が停滞しており、職員は不安と将来への不確実性を抱えながら活動していると明らかにした。影響を受けるプロジェクトには、難分解性の有機フッ素化合物(PFAS)などの健康リスクへの評価、米南部の農村部での呼吸器疾患に関する調査、気候変動や山火事によって悪化する真菌症である「渓谷熱」の感染拡大に関する研究などがある。
EPAのゼルディン長官は記者団に対して先週、ORDの再編計画はまだ検討中だとして「できる限り早く発表するつもりだが、できる限り思慮深い内容にしたい」と言及。「これはORDだけの話ではなく、全ての部署が対象だ」とし、EPA職員の削減について具体的な数値目標は持っていないものの「法的義務を果たし、中核的使命を果たし、偉大な米国が復活する原動力となる」には十分な人員が必要だと主張した。
<誰もが「本当にひどい」と思っている>
EPA本部に勤務するORDの科学者の1人は「毎日、私たちの足元から敷物が引きずり下ろされるような気分だ」として職務に集中できない環境になっていると打ち明けた。その上で「誰もが本当にひどいと感じている」と嘆いた。
米南部ノースカロライナ州在住の別の研究者によると、研究計画は一時停止されて、EPAはクレジットカードや技術サービスといった必要不可欠なツールを取り上げた。
環境正義のようなトランプ政権が敵視するテーマに取り組んでいる科学者では、完全に職務停止に追い込まれた事例も出ている。
南部の農村地帯の大気汚染を調査している疫学者は、ある施設に関連した暴露関連疾患についての調査と地域社会への働きかけを中止した。この科学者は「地域社会との信頼関係を築くのに何年もかかったのに、今は彼らを見捨てるような気持ちだ」と語った。
60人で構成される統合リスク情報システム(IRIS)のチームは宙ぶらりんになっていると一員が明らかにした。PFAS(有機フッ素化合物)やヒ素のような汚染物質について調べるIRISのチームは、EPAの化学政策部と合併する可能性があり、独立性が脅かされている。
ロイターの取材に応じたEPAの科学者によると、ORDが解散に追い込まれれば政策の科学的整合性や、公衆衛生上のリスクへの対処能力が失われる可能性がある。
EPAに40年間勤務し、2021年までORDを率いたジェニファー・オームザバレタ氏は、トランプ氏の最初の任期を含めて、これまでの政権では、EPAの独立性が守られていたと語った。
彼女は、中央集権化されたORDが、科学的知見を複数のプログラムに反映させる役割を果たしていると説明する。そして、「現政権は法律で定められた必要条件に注意を払わず、ただ混乱を招いている」と批判した。
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Valerie Volcovici covers U.S. climate and energy policy from Washington, DC. She is focused on climate and environmental regulations at federal agencies and in Congress and how the energy transition is transforming the United States. Other areas of coverage include her award-winning reporting plastic pollution and the ins and outs of global climate diplomacy and United Nations climate negotiations.