復活支えた阪神・石井と「手紙の物語」伏見から「焦るなよ 絶対大丈夫」ファンへ「石井大智はどんな時も踏ん張ります」
8回、復活のマウンドに上がった石井は深呼吸をする(撮影・田中太一)
「阪神2−3DeNA」(5日、甲子園球場) おかえりなさい−。拍手と声援が甲子園を包む。みんなが待っていた。アキレス腱断裂から復帰の阪神・石井大智投手(29)が342日ぶりの1軍公式戦登板を果たすと、八回の1イニングをゼロに封じ、昨シーズンから51試合連続で無失点となった。試合には敗れたものの、悪夢を乗り越えた不屈の右腕が、連覇に向けて力強くチームを支えていく。 ◇ ◇ 受け入れがたい現実だった。 「悪夢の中にいるような感じ。朝起きて普通に歩けるんじゃないかと望んだ時もあったんですけど、でも、歩けなくて」 足をついて歩けない。松葉づえがなければ生活もままならない。車の運転もできない。まずはベンチプレスなど上半身を中心にできることから取り組んだ。平たんではなかった206日の道のり。そこには石井を支えた手紙の存在があった。 大阪府内から退院後のあるオフ。失意の中、球場に向かうと、ロッカーに置かれていたのは腱の修復に必要となるビタミンCとコラーゲンのサプリメント。そして一枚の手紙。「焦るなよ。絶対大丈夫」と添えられていた。かつて、同手術を受け、復帰した伏見からのプレゼントだった。「うれしかった」。同じけがを経験し、心情を誰よりも理解する男の気遣い。感無量だった。 本格的にリハビリが始まると、ファンとの交流も増えた。アキレス腱断裂を経験したファンからの手紙も受け取った。「これを乗り越えて頑張ってほしい。また投げる姿を楽しみにしています」という励ましの言葉と経験談が書かれていた。励みになった。 手術前に妻からは「まだ終わったわけじゃないよ」と声をかけられた。「気持ちが落ちている時に自分の性格を知った上でかけてくれる言葉」。力が湧いてきた。また立ち上がることができた。 4月12日、スポンサーを務める古巣・四国ILp高知で自身の冠試合が開催された。ファンに直筆の言葉を印刷したトイレットペーパーを配布することとなった。長考の末「石井大智はどんな時も踏ん張ります」と記した。 「つらいことを受け止めて、タフになっていくことが自分の強み。力に変えてやっていける自負があるのでそういう気持ちで書きました」 石井からファンへの手紙であると同時に、自分自身への手紙でもあった。つらいリハビリの中、自らを奮い立たせていた。武政球団社長は「石井らしい言葉だと思いました」と振り返った。
「毎年試練があるのはしんどいけど、野球をやめる時は必ず来る。その時にいかに後悔を残さないか。振り返った時によくやったなと思いたい」。登場曲の「HIGH FIVE」の歌い出しに「ここまでかもな。そう自分を何度投げ出しそうになったろう」という歌詞がある。これほどまでに石井を端的に表現した言葉があるだろうか。理不尽な現実から何度でもはい上がってみせる。