動画に特化したキヤノンVシリーズ、待望のフルサイズ「EOS R6 V」を試す
キヤノンがVlogなど動画クリエイターにフォーカスしたカメラを発売したのは、2023年の「PowerShot V10」であった。ビデオカメラではなく、コンパクトデジカメの技術をベースにした縦型のモデルである。
ここが基軸になり、2025年のレンズ一体型「PowerShot V1」は、コンデジ受難の時代の中で大きな注目を集めた。またすぐこれに続いてAPS-Cサイズのミラーレス機「EOS R50 V」も登場した。
ポケットサイズからミラーレスまで3モデルが揃ったところで、残りの欠けているピースはフルサイズのみとなった。ただ従来機が得意としてきた機動性を考えると、フルサイズ機まで行くのかどうか、キヤノンの回答待ちという状態が続いていた。
そしてその答え合わせとなるモデルが6月下旬より発売される。「EOS R6 V」は、動画クリエイター向けのVシリーズを冠しながら、フルサイズセンサーを搭載するフラッグシップモデルとなる。キヤノンオンラインショップでの価格は、363,000円。合わせて新規投入されるレンズ「RF20-50mm F4 L IS USM PZ」とのキットは528,000円、レンズ単体は213,400円となっている。
「EOS R6」は2020年に発売され、すでにMark IIIまで発展しているところだ。とはいえR6 Vは、ボディデザインなども一新され、まったく違ったカメラとなっている。
動画に特化した待望のフルサイズ機「EOS R6 V」の実力を、早速試してみよう。
まずはボディの特徴から確認していこう。昨今は動画モデルの特徴ともなった、ビューファインダーなしのボディは、高さを抑えてほぼマウント径ギリギリの高さとなっている。写真と動画の切り替えは左肩のスライドスイッチで行なう仕様だ。右手グリップ側には三脚穴があり、積極的に縦撮りをサポートする作りとなっている。
特筆すべきは、その軽量さだ。重量約688gで、キットレンズと合わせても約1.1kgとなる。ボディサイズはフルサイズとして一般的なサイズだが、この重量なら手持ち撮影も楽だ。
搭載センサーは約3,250万画素のフルサイズCMOSで、デュアルピクセルCMOS AF対応。画像処理エンジンはDIGIC Xで、これは過去R6シリーズすべてに搭載されている。
撮影可能なコーデックはRAW、XF-HEVC S YCC422 10bit、XF-HEVC S YCC420 10bit、XF-AVC S YCC422 10bit、XF-AVC S YCC420 8bitとなっている。XF-HEVC SもしくはXF-AVC Sのいずれかを選択すると、DCIサイズ4K×2、UHDサイズ4K×2、DCIサイズ2K、FHDと、6パターンの撮影サイズがある。それぞれに対応フレームレートが異なる。
大雑把に言えば、Fineモードだとハイスピード撮影ができない。DCIでは24Pちょうどが撮影できるが、UHDではそれができないといった違いがある。
センサーアスペクト比は3:2で7K30Pのオープンゲート撮影が可能。オープンゲートとは、センサー全域を使って広く撮影しておき、編集時に適切な画角にトリミングして使用するというスタイルだ。先行例としては、BlackMagic Designのシネマカメラ系がある。本機ではRAW、XF-HEVC S YCC422 10bit、XF-HEVC S YCC420 10bitのいずれかで撮影できる。
モニターは横出しのフリップ式で、対面撮影にも対応する。3.0型約162万ドットの3:2タッチパネル式TFTカラー液晶モニターだ。色調調整機能もあり、暖色/標準/寒色1/寒色2の4つから選択できる。
カードスロットはグリップ脇にあり、CFexpress Type Bと、UHS-II対応SDXCのデュアルスロットとなっている。
新レンズ「RF20-50mm F4 L IS USM PZ」も見ておこう。赤いリングがあることからもわかるようにLレンズだが、Lレンズとしては初めて電動パワーズームを搭載した。重量は420gと、こちらもかなり軽量だ。
パワーズーム操作はズームリングを回すようになっている。リングはマニュアルズームとの切り替えで兼用することになる。またパワーズームはカメラ側のズームレバーでも操作できる。
まずは画角から確認していく。「RF20-50mm F4 L IS USM PZ」は20〜50mmになるわけだが、昨今のスマートフォンのメインカメラはだいたい24mm程度で、ワイド側は16mm程度なので、ちょうどその中間あたりからのスタートということになる。倍率は2.5倍とそれほど高くないが、テレ端50mmは人物撮りにはちょうどいい焦点距離である。
一方カメラ側では、「動画クロップ」機能が使える。普通の撮影は7Kセンサーからのオーバーサンプリングだが、ピクセル等倍で撮影するわけだ。この機能を使うと、同じレンズでもだいたい34~85mmぐらいの画角になる。また本機にはデジタルズーム機能もあるが、これが使えるのはFHD解像度で撮影する場合のみだ。
レンズ部にあるズームリングによるパワーズームは、回転角が小さく、細かい調整は難しいように感じた。幅にして1cmぐらいしかない範囲でズームのコントロールを行なうのは至難の業だ。今回は2.5倍とそれほど倍率がないのでまだマシだが、今後こうした機構で高倍率のパワーズームを搭載するなら、もうちょっと回転角を大きく取らないと、ズームのスピード調整や、狙った画角で止めるといった動作が難しい。
手ぶれ補正は、レンズ側の光学補正と、電子補正が併用できる。電子補正には「入」と「強」があるが、歩行シーンに関してはどちらも補正の限界値までいくと映像がジャンプする現象が見られる。これは歩き撮りに対応するものではなく、手持ちでのフィックス撮影用と考えたほうがよさそうだ。
本機はVシリーズということで、これまでVシリーズに搭載されてきたカラーモードが搭載されている。静止画ベースのピクチャースタイルや、EOSの動画モードに搭載のカスタムピクチャーも使えるので、3タイプのカラーモードが使えることになる。
ピクチャースタイルは、オート、スタンダード、ポートレート、風景、ディテール重視、ニュートラル、忠実設定、モノクロの8種類のほか、ユーザー設定が3つ使える。
カラーフィルターはVシリーズ特有の機能で、14種類が搭載されている。ここでは代表的な3つを掲載する。全種類は「EOS R50 V」の時に撮影しているので、そちらをご参照いただきたい。
カスタムピクチャーはプリセットとして、Canon 709, BT.709 Std,Canon Log 2, Canon Log 3, PQ, HLGの6種類がある。特に今回はフィルム特性に近く、暗部の階調性が高いCanon Log2が搭載されたことがウリになっている。ここではBT.709の2種と、Log2種類を公式LUTを使ってBT.709に変換したものを掲載しておく。
サンプル撮影はXF-HEVC S YCC422 10bitのCanon Log 2で撮影し、HDRにグレーディングしたものである。RAW撮影ではないが、グレーディングに十分なラティチュードがある。サンプル動画はYouTube側の圧縮が入るのでSNは落ちているが、元動画ではかなりレンジを広げても画質劣化は感じられない。
内蔵マイクで収音する人は少ないと思うが、ウインドカットや音声ノイズ低減といった機能があるので、テストしてみた。
ウインドカットは切かオートしかないので、レベルのようなものはないが、マイクが軍艦部に水平に取り付けられていることから、横風には弱い。音質にはあまり影響がないようなので、オートにしておいても問題ないだろう。
音声ノイズ低減は、音声以外のノイズを低減してくれる機能のようだ。音声に「シャー」という音が入っているが、これは本体内に内蔵されているファンの音である。撮影日は気温が30度を超えて日差しも強かったため、本体の温度上昇が問題になった。
本機には冷却ファンが内蔵されており、ファンの回転速度が選択できる。今回は「高速」に設定したため、マイクの収音時にその音が入り込んだというわけだ。
ファンは録画開始前はあまり回らず、実際に記録が始まると高速で回り始めるようだ。液晶に表示しているぐらいは大したことないが、やはりセンサーがフル解像度で動き出すと、急速に温度が上がるようである。
ただこのおかげで、今回の撮影では高熱で撮影が不可能になることはなかった。夏場の撮影では、ワイヤレスマイクなど外部マイクの使用は必須だ。
オープンゲート撮影も試してみた。今回はXF-HEVC S YCC422 10bitなので、6912×4608ということになる。フレームレートは29.97だ。
サンプルの最初のカットが、撮影しているそのままの画角である。ここからHDサイズに切り出しているが、バストサイズぐらいまで切り出しても画質的には問題ない。
4KからHDサイズに切り出す場合、4倍以上は画質劣化が起こるが、元が7Kなのでだいたい15倍ぐらいまでは切り出せることになる。縦と横のコンテンツを同時に撮影するなどの場合も有効だろう。ただ、編集時に切り出し画角を決めてカット割りを作らなければならないため、編集時の負担が増える。
一方でこうした撮影手法は現場で画角を決めないため、カメラマンや撮影監督など、撮影を生業にする人たちにはあまり好まれない。1人で撮影する場合や、撮影専任者がいない場合には便利な方法である。
スロー撮影は、4K-Dおよび4K-Uモードでは120fpsまで撮影できる。2KおよびFHDでは180fpsまで撮影できるので、29.97フレームの場合は6倍速スロー撮影が可能だ。
夜間撮影もテストしてみた。常用の最高ISO感度は25600になるが、拡張ISO感度を使うと102400まで使える。シャッタースピード1/60、F4で順にISO感度を上げていったが、常用であるISO25600ぐらいまでは普通に使える範囲だ。ちなみに目視ではISO6400ぐらいの明るさの場所である。
このサンプルでは街灯のフリッカーが気になったと思う。東日本の電源周波数50Hzに対して1/60秒で撮っているので、ズレがあるわけだ。しかし本機には、「高周波フリッカーレス撮影」という機能がある。これを使うと、現在撮影中の照明の周波数を自動検出し、それに合うようにシャッタースピードを調整してくれる。
この機能を使ったところ、街灯の周波数は100Hzということがわかったので、シャッタースピードも1/100秒に自動調整された。実際に撮り比べてみると、完全にフリッカーが止まっているのがわかる。海外などで謎の照明下での撮影には、威力を発揮するだろう。
R6の名を冠する本機だが、内容的にはR6シリーズの後継というよりは、Vシリーズの発展形をR6のアーキテクチャを使って実現したといった性格のカメラである。
Log撮影してグレーディングといったデジタルシネマスタイルにも対応するほか、過去Vシリーズで培ったカラーモードを備えることで、現場で色を作って撮影するといった手法の両方に対応する。
センサー全域を使った動画撮影では、昨今の過酷な夏の暑さによりカメラがシャットダウンするという問題が多く発生してきているが、本機は冷却ファンの強度をユーザーが選べるようになっている。音は気にせず、ヤバそうな場合はファンをぶん回して凌ぐといった方法が取れるのは強い。
Vシリーズはセルフィー動画やVlogなどライトな用途からスタートしたが、フルサイズまで到達したことで、デジタルシネマまで含めた動画クリエイター全般をカバーできるカメラとなった。今回はCanon Log 2搭載が目玉ではあるが、カラーフィルターを使ったフルサイズの表現力も魅力的だ。カメラの性能を生かすなら、Logよりもむしろカメラ内で絵を作る方が楽しめるカメラである。